About Anomalies
分析も文章も途中なのですが,紹介します.そのうち,論文にしたいと思いますが,いつのことになることやら....
とか言ってるうちに,良い本がでました.
「市場と感情の経済学」
リチャード・H・セイラー[著]/篠原 勝[訳]
ダイヤモンド社
です.日本経済新聞にも書評が載っていたので知っている人も多いかと思います.このセイラーという人の書いた論文(共著)で取り上げたことが,僕の修士論文のテーマだっただけに,アノマリーに対する認識がさらに広まるこの本の出版は,感慨深いものがあります.
アノマリー(anomaly)とは「例外」,「異例」,「矛盾」といった意味の言葉です.証券市場研究においてアノマリーとは,価格理論から導かれる期待収益率よりも高い(あるいは低い)収益率を生む一連のパターンのことを指します.これは1,2回の偶然のことを指すのではなく,かなり長い期間,持続して観察されるパターンです.
アノマリーの存在に対して,見方は2つあります.
- 市場は効率的ではない,その証拠とする見方
- 計測の仕方が悪く,たまたまアノマリーとして観察されるとする見方
市場効率性の検証は,効率性それ自体の検証とリスク調整を行うモデルの検証を同時に行うという問題点を抱えていますので,モデルが悪くてアノマリーに見えてしまうのか,市場が効率的でなく,アノマリーが生じているのか,判断がつかない部分もあります.
その意味では繰り返し繰り返し,新しいデータ,さらに精緻なリスク調整のモデルを用いて検証し続ける必要があるのでしょう.
さて,以下では代表的なアノマリーのうち,比較的簡単に分析できるものを紹介します.
暦に関連したアノマリー
一般に人の行動は暦(純粋な暦というより,人が生活のなかで作ってきたパターンのようなものです.)に左右されているように思えます.月曜日は仕事に行きたくないなぁ,とか,木曜,金曜は来る週末に向けて気持ちがのっていたりします.また,給料日前の懐のさみしいときは行動を控え目にしたり,年末年始はなにかとお金をつかったり.....
こうしたことが証券市場にも影響するのでしょうか.ここでは暦と投資収益率の間に観察されるアノマリーを集めてみました.
1.月効果
月効果は1月効果ともいわれます.1月の収益率はその他の月に比べて高いというものです.
初めてこの現象に言及したのはWachtel(1942)といわれています.はじめはアメリカの証券市場における報告が中心でしたが,1983年,Gultekin and Gultekin によって世界の主要な証券市場についての報告がなされました.
世界の17か国中,日本を含めた12か国で統計的に有意な水準で月ごとの収益率が異なるという結果を示しています.彼らの検証によって,月効果はアメリカ固有の現象でなく,世界の主要な市場で観察される現象であることが明らかになっています.
また,日本の市場に対しては,Kato and Schallheim(1985)が分析を行っています.彼らは1960年から1989年のデータを用いて日本の市場で1月効果に加えて6月にも高い収益率が得られることを報告しています(これはGultekin and Gultekin(1983)でも確認できます.).また,彼らはこの現象が小型株(時価総額における)に顕著であったとも報告しています.
ここで,私自身が計算した結果を表と図で示してみましょう.使用したデータは日本証券経済研究所が発表している「株式投資収益率」から,1952年〜1994年におけるJSRIインデックスの月次収益率です.表は各月の収益率,表下のCHISQはKruskal-Wallis testによるカイ二乗統計量を示しています.
| 月 | 収益率 |
| 1月 | 4.039 |
| 2月 | 0.802 |
| 3月 | 2.218 |
| 4月 | 1.504 |
| 5月 | 0.951 |
| 6月 | 1.397 |
| 7月 | 0.327 |
| 8月 | 0.893 |
| 9月 | 0.581 |
| 10月 | 0.123 |
| 11月 | 0.946 |
| 12月 | 1.995 |
| CHISQ | 22.176
|
表や図からも分かるように,1月の収益率が他の月に比べて高いことが分かります.また,3月,12月の収益率も比較的高いといえるでしょう.Kruskal-Wallis testのカイ二乗統計量は22.176と有意水準5%で各月の収益率は同じ,という帰無仮説を棄却しています(もっとも,パラメトリックな検定であるF検定ではぎりぎり5%では棄却できませんでした.).また,この結果からみる限り,Kato and Schallheim(1985)で主張された6月の収益率はそれほど高くないように見えます.一方,3月の高収益率はこれまでに見られない現象のようです.これは80年代後半に上場企業がこぞって決算期を3月に変更したことと関係があるのでしょうか?それとも市場のなにかが変化したからなのでしょうか?
さて,2008年に改めて計算してみました.1978-2008年のTOPIXの月次収益率で検証した場合です.通してみると,確かに1月はプラスですが,3-4月の方が強く出ています.日本の新年度を考えると4月効果と呼んでよいかもしれませんね?
2.曜日効果
曜日効果は週末効果(Day of the week effect)ともいわれています.この現象は週末の曜日における収益率は他の曜日に比べて高く,月曜日の収益率は他の曜日に比べて低い,というものです.週末の高収益率は取引所の制度変更(土曜日休業の導入)にも関りなく観察されています.また,休日前の取引日の収益率が高く,休日明けの取引日は平均して低いことも報告されています.
| 曜日 | S&P500*1 | TOPIX*2 | TOPIX*3 |
| 月曜 | -0.129 | -0.014 | 0.039 |
| 火曜 | 0.020 | -0.064 | -0.110 |
| 水曜 | 0.097 | 0.124 | 0.153 |
| 木曜 | 0.032 | 0.026 | 0.028 |
| 金曜 | 0.078 | 0.057 | 0.082 |
| 土曜 | NA | 0.099 | 0.138 |
| *1:Jaffe and Westerfield (1985) for 1970-83 | |||
| *2:Jaffe and Westerfield (1985) for 1970-83 | |||
| *3:池田(1988) for 1977-86
| |||
日本では池田(1988)が詳細な分析を行っています.池田によれば,アメリカ市場では月曜日に低い収益率が観察されるのに対して,日本の市場では火曜日に低い収益率が観察されたとしています.また,水曜日,土曜日の収益率は他の曜日に比べて高いことが観察されています.
ここで,私自身の計算結果を示してみます.分析には1977年1月〜1995年8月における東証株価指数(TOPIX)の日次収益率を用いました.表は各曜日の収益率と標準偏差,歪度,尖度といった統計量を示しています.
| 曜日 | 収益率 | 標準偏差 | 歪度 | 尖度 |
| 月曜 | -0.0008 | 0.0104 | -0.7164 | 8.7666 |
| 火曜 | -0.0006 | 0.0100 | -2.2258 | 58.6383 |
| 水曜 | 0.0010 | 0.0095 | 1.0990 | 15.1058 |
| 木曜 | 0.0007 | 0.0088 | 0.1699 | 5.8512 |
| 金曜 | 0.0007 | 0.0092 | 1.4996 | 12.7895 |
| 土曜 | 0.0015 | 0.0054 | 0.1375 | 5.2141
|
表からはこれまでの研究と同様,火曜日の低い収益率と水曜,土曜日の高い収益率が観察されます.また,それぞれの曜日の収益率の変動性(標準偏差)も考慮してみます.下のグラフは縦軸に収益率,横軸に標準偏差をとっています.
こちらも同じく2008年に再計算したものです.月曜がマイナスで,火曜日も少し良くなりますが,マイナス.土曜日を別にすれば水曜が最も高く,週末に向けて減少しる傾向は先の結果と同じものが得られています.
3.祝日効果
これも曜日効果といってもいいのですが,ここでは別に取り上げます.アメリカ市場では週末に高い収益率が出る特徴がありましたが,原因は様々考えるとしても,1つには市場が休みに入るためではないかと考えられました.であれば,祝日などの前日も高い収益率がなくてはなりません.そこで,先の分析と同じサンプルを使い,休日前,休日明け,そして,飛び石連休の間にある日の3タイプの取引日を取り出して分析してみました.
| 取引日数 | 収益率 | 標準偏差 | |
| 休日明け | 1001 | -0.0010 | 0.0105 |
| 休日前 | 1000 | 0.0011 | 0.0086 |
| 飛び石 | 69 | 0.0021 | 0.0081 |
| その他 | 2974 | 0.0004 | 0.0091
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また,下の図は縦軸に収益率,横軸に標準偏差をとってプロットしたものです.
休日前と休日後ではまったく市場の動きが違うことが分かります.
曜日効果,祝日効果といわれているものは確かにアノマリーと呼べるものではありますが,実際に投資戦略には向いていません.取引コストを考慮すると,日ごとの売買による戦略を行うには収益率の差が少なすぎます.しかし,学問的興味はあるのでもう少しこの分野の研究を続けてみてもいいかと思います.
- Fama, E. F., 1970, Efficient capital markets: A review of theory and empirical work, Journal of Finance, pp383-417.
- Fama, E. F., 1991, Efficient capital markets: II, Journal of Finance, pp1575-1617.
- Gultekin, M. N. and N. B. Gultekin, 1983, Stock market seasonality: International evidence, Journal of Financial Economics, pp469-481.
- Haugen, R. A. and J. Lakonishok, 1988, The incredible january effect, IRWIN,(丸 淳子,兼広崇明 訳, 1988,『株式市場のミステリー』,東洋経済新報社).
- Kato, K. and J. S. Schallheim, 1985, Seasonal and size anomalies in the japanese stock market, Journal of Financial and Quantitive Analysis, pp243-260.
- Wachtel, S., 1942, Certain observations on seasonal movements in stock prices, Journal of Business, pp184-193.
- 池田昌幸, 1988,「曜日効果と正規分布混合仮説」,『ファイナンス研究』,pp27-54.
- 加藤 清, 1990,『株価変動とアノマリー』,日本経済新聞社.
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