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ダムの必要性と今後の展望について

201-039 唐澤 浩司

2001年2月、長野県知事の田中康夫は「脱ダム宣言」を公表し、全国に大きな衝撃を与え注目された。長野県は周囲を山に囲まれ、数多くの水源を擁しており、ダムとの縁は非常に深い。本論文ではダムが環境へ与える影響について長野県の脱ダム宣言をとりあげて検証した。

脱ダム宣言の理由には、県が抱える莫大な財政赤字や、治水・利水・水力発電がダムの建設目的とされたが、それは名目だけのもので、実質は地域振興を第一の目的とされてきた経緯がある。国の先導でダム建設は行われ、ダムを造らせるための補助金のしくみや、建設の根拠となる治水安全度の過小評価が行われてきたのである。ダム建設は、堆砂問題、魚道問題、水質悪化、生態系への影響、景観の破壊などの環境問題を引き起こす。また、いままでメリットと思われてきた治水効果も疑問となってきた。

長野県では脱ダム宣言後、各ダムで見直しが始まり、ダムによらない治水・利水対策が模索され始めた。日本の伝統的な治水技術の導入や、土地利用の見直し、そして最も期待されているのが緑のダムである。

緑のダムとは森林の公益的機能を持ったダムのことで、森林が雨水を貯め込むことにより、洪水時はピーク流量を減少させ、さらに緩やかに減水させる。洪水緩和効果や渇水緩和効果が期待される。さらに、その他さまざまな洪水対策を組み合わせることでダムに頼らなくても十分対応は可能である。しかし、温暖化の影響から、治水・利水の安全度は低下しているので、ダムに変わる対策はこれからさらに議論されるべきだろう。

ダムは多くの恩恵を人間社会に与えてくれた。しかしそれをはるかにしのぐ被害も与えてきた。ダムによる治水は限界を迎えたと言える。欧米では90年代に、いままでの河川政策を転換させ、脱ダムという方向へ変わり、最近ではダムを撤去するまでに至っている。日本も過去の過ちを認める時代がやってきたのである。



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