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黒部ダムにおける連携排砂の実情と問題解決に向けて

200-139 沼田 広和

黒部ダムをはじめ多くのダムが集中立地する富山県の黒部川で、ダムをめぐる環境問題が生じている。ダム湖に溜まった土砂を排出してダムの延命を図る「排砂」によって、汚染されたヘドロ状の土砂が日本海にまで流れ出し、地元住民が「漁獲量が減少した」と指摘している。

計16回の排砂評価委員会の意見を踏まえ、「連携排砂は問題ない」としている国土交通省や関西電力と、実際に採取したヘドロを調べ、「連携排砂はまだ技術が確立していない」とする沿岸漁業者の主張には大きな違いがある。両者の視点から「連携排砂問題」を検討し、地域政策的な見解を踏まえ、今後の対応策を検証する。

連携排砂の実施にあたって、ダム管理者側は、広範囲な環境調査を行い、その影響を把握・監視している。この調査結果を、速やかに公表するとともに、学識経験者で構成された「黒部川ダム排砂評価委員会」で連携排砂に関して議論・検討を行い、流域の市や町、関係機関からなる「黒部川土砂管理協議会」で協議・調整を図っている。

一方、地元漁業関係者は、「公害紛争調停申請書」を始めとし、「連携排砂に対する申し入れ書」等の資料で排砂による環境被害を報告し続け、現在の連携排砂の不完全さを主張している。

地域政策の観点を踏まえた改善すべき課題として、環境調査や排砂に関して、流域住民や被害を受けた漁業従業者の意見の反映が少ない点に問題がある。さらに、沿岸漁業者、県漁連、関西電力・国土交通省という地域独自の複雑な構図関係が、連携排砂の問題解決をより難しくしている。

こうした課題を考慮し、私の考える今後の対応策は以下のとおりである。(1)ダムの湖底、下流域、周辺海域において、連携排砂による環境影響・生物影響の徹底調査。(2)連携排砂方法の再検討。(3)法や環境基準の見直し。(4)ダム事業者と被害漁民とが、連携排砂について充分に話し合い、議論できる「場」を設ける。

今後の連携排砂は、ダムの堆砂量を減らすという延命策だけでなく、河川全体の生態系環境の保護を視野に入れるべきである。生態系の全体性を意識し、洪水調節機能・水の浄化機能・漁場の回復・土壌の肥沃度の回復・帯水層の補充という生態系の自然再生能力に注目した「総合的な管理体制」を目指していくべきである。



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