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八ツ場ダム建設における5つの問題点

297-032 小川 泰明

ダム建設は、治水・利水、水道・工業・農業用水の確保、電源開発などを目的として造られる。しかし,建設にあたっては、ダム建設地域や下流の環境破壊、地域住民との対立、多額の公共事業費という問題が生じる。

八ツ場ダムは、長野原町の吾妻川流域に建設されるダムで、絵貯水量1億750万m3の県内第3位の巨大ダムである。総事業費は5000億円を超えると言われている。主な建設目的は、洪水調整と水道用水・工業用水の確保である。ダム完成により、川原湯温泉や八ツ場の豊かな自然、名勝として知られる吾妻渓谷の半分近くが水没することになる。

八ツ場ダム建設には、以下の5点が問題点として挙げられる。(1)国の水需要予測と現在の水需要との相違。(2)洪水調整効果の疑問と八ツ場ダムの夏期の利水容量と開発水量の矛盾。吾妻渓谷は両岸が狭く洪水時に一時的に水を貯める効果を持ち、洪水ピーク時でも急激な水位上昇はなく、自然に洪水調整が行われる。夏期の利水容量は2500万m3とされているが、開発水量14.07m3/秒では20日分しかなく、通常のダムの開発水量(50日から60日)と比べ無理があると考えられる。(3)強酸性河川である吾妻川の不充分な中和。ダム湖の富栄養化が懸念されているが、「八ツ場ダム建設事業」によると、酸性河川のため富栄養化は考えにくいとしている。また、出水時には酸性度が増すこともある。実際1984年に風呂川(前橋市)で鯉の大量死や品木ダムからの中和生成物を含んだ水の流出により、利根川に漁業被害(1989年)をもたらせた。(4)八ツ場ダム建設地域にイヌワシなどの貴重な動植物の存在を認めながらも、具体的な保護策を立てていない。これに対して「八ツ場ダムを考える会」の建設省に対する公開質問の回答では、「八ツ場ダム建設事業」を参照とあるだけで明確に答えていない。(5)吾妻渓谷の保全策。渓谷の保全は最大限行うとしているが、流れをせき止めてしまえば三波石渓(鬼石町、下久保ダム)のように、元の景観を保てなくしてしまうものと考えられる。

これからは、新たなダム建設をするよりも森林の育成、河川改修、水田などの農地振興、都市部での過密の解消、一人一人の節水意識の向上など,自然を活かしながら、川と共存した開発が求められる。



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