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尾瀬における自然環境の保全と保存

297-021 入澤 良明

自然を管理することと自然を維持することは、自然を守るという点においては共通しているものの、両者の思想には差異がある。管理と維持は、言い換えると「保全」と「保存」である。自然保護の論争は、「保全」の立場に立つのか「保存」を貫くのかで主張が変わる。

「自然保護運動の原点」といわれる尾瀬は、「保全」と「保存」を考えるうえで歴史や適正利用の面からみて格好の題材であるので、両者の差異を詳細に分析するために具体的事例として尾瀬を取り上げ、尾瀬における自然保護運動を「保全」と「保存」の思想の視点から検討した。

尾瀬の豊富な水量を目当てとした水力発電計画の時代は、反対運動における保全の思想と保存の思想は協調していた。尾瀬の景観を目当てに入山者が増加した時代に、大清水(群馬)-尾瀬沼-檜枝岐(福島)を結ぶ道路は、登山道から観光道路へ拡幅工事が行われた。拡幅工事の反対運動は、保存派が中心となり環境庁長官の工事の中止を要請し、同長官が現地視察の結果、拡幅工事は尾瀬沼に達する前に中止された。しかし自然への負荷が徐々に大きな問題となる頃には、保全・保存の思想は複雑に絡み合ったため、対策は迅速・適切に行われたとはいえない。その原因は、尾瀬が3県(3村)にまたがり、環境庁、文化庁、林野庁、東京電力、尾瀬山小屋組合、観光組合、自然保護団体、愛好者など、多数の団体、個人が関わることにより、個々の主張や利害関係が複雑なためである。尾瀬では、植生復元や排水処理対策などのハード面および、適正な利用に対する働きかけなどのソフト面の対策を業務の柱とした、各主体と協調する「尾瀬保護財団」が1995年に設立された。

環境教育の場としての尾瀬の利用を考えると、早急に取組むべき課題として、入山者だけではなく尾瀬に関わる各主体においても、自然環境の本質的価値を尊重する環境教育の実践が必要である。そのために、これまでの一時的な調査研究だけではなく、生態系の微妙な変化を科学的に把握し、保存の視点での調査研究や、オーバーユースと自然破壊の因果関係の研究が必要であり、地域レベルでの環境収容量把握のための専門研究機関を設置して、強い発言力を持たせるべきである。尾瀬を後世に伝えるということは観光地として伝えることではない。生態系の本質的価置を後世に伝えなければならない。



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