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「杉並病」の現状と今後の課題

299-820 森下 学

「杉並病」とは化学物質過敏症を原点とした内科、外科および精神的な症状が認められる地域特有の公害病であると考えられる。

東京都は、収集車9台分の不燃ゴミを圧縮し、大型コンテナ車に積み替え、最終処分場に運び出す中継所を東京都杉並区に建設した。これは、都内各地から搬出される不燃ゴミや交通渋滞を減らす目的である。操業開始は1996年4月、試運転開始の3月から中継所周辺に住む人々や動物に健康被害、施設周辺の動植物にも様々な病態があらわれた。原因不明、治療法も分からず、他に例を見ない被害の複雑さ、過酷さから、「杉並病」とよばれた。

都は当初、硫化水素による一過性の被害とし、住民らは施設から排出される化学物質による大気汚染が原因と主張した。環境点検調査によれば、この施設及び周辺の大気からは、すでに名の知られた有害な化学物質(シアン、トルエンジイソシアネート、ホルムアルデヒドetc.)350種以上と「未同定物質」を検出している。しかし、都は「周辺の大気は他地域と変わらない」とした。2002年6月26日、国の公害等調整委員会は、健康被害が中継所から排出される化学物質によるという裁定を下した。同時に、同委員会の「被害は操業開始時5ケ月以降鎮静化している」との判断により、中継所の操業は縦続している。区の行政と議会では「『杉並病』はマスコミが作って広めた言葉で、そのような病気は存在しない。中継所や井草森公園周辺の問題」として扱われている。中継所の健康被害についても、区は2000年10月に「中継所からは人体に影響を及ぼす化学物質は出ていない」と事実上の安全宣言を出した。

操業から6年、マスコミに報じられることも減り、被害者の声は表に出なくなったが、発症被害は年々重症化し、隣接区にまで広がった。地元住民は中継所周辺で救急車の出勤回数が、多い日に10台近くあると発言している。このような問題は、我々の無秩序な大量消費生活に警鐘を鳴らすものだ。故に、中継所停止を叫ぶと同時にゴミを減らす努力をしてゆき、「杉並病」の解決、さらに日本のゴミ問題を解決してゆく一つの鍵になるのではなかろうか。



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