卒業生への御言葉地域調査と吉岡町 (卒業論文集 第3号より) 2002年3月

吉岡町は榛名山麓から利根川にかけて広がる北群馬郡の町である。出身地が北海道から三重県に及ぶ3期生9人が、高崎経済大学入学以前にどれだけこの町を認識していただろう。私にしても、沼田市史や白沢村史に関わっていたことから、何度も高渋線や関越自動車道の側道を車で走ったが、朧気ながら町の名前を記憶しているにすぎなかった。

このような我々が吉岡町に深く関わりを持つことになった。きっかけは群馬県の企画部地域整備課が行っている「地域づくりオープンカレッジ事業」の研究室に選ばれたことによる。この事業は地域(行政・住民)と大学が共同で地域の抱える問題等に向き合い、調査や意見交換を行うことで相互認識を深めることが主な目的であった。そこで、調査テーマを「地域間結合の諸変化と町づくりの方向性」に設定し、ゼミ生9人が地域調査から最終報告書に至るまでの作業を分担し完成させた。夏の暑い日に行った大型スーパーや日帰り温泉でのヒアリング調査は、皆の記憶に強く残ったことと思う。見ず知らずの人に話しかけて調査を遂行することの楽しさや難しさを痛感したこともあっただろう。研究室でコンピュータを使いながら分析を行い、デジタル地図を作成し、中間報告のレジュメを作成したことも良い思い出となっている。皆のコンピュータ操作力が日に日に高まっていくのが感じられたし、私も随分勉強させてもらった。また、吉岡町で開かれた都市計画マスタープラン作成のための住民ヒアリングにも参加し、生の声を聞くことができたことも大学での講義では得られないものであったろう。吉岡町役場で行われた中間報告もプレゼンテーションの一切をゼミ生が取り仕切った姿は、傍目から見て頼もしく思えた。

私がこの地域調査を通じて感じたことは、時間を共有することの大切さと、人との繋がりの重要性であった。なぜか飲んだり食べたりした思い出が多い。その時間が長かったせいか、一人一人の姿・個性が蘇ってくる。ゼミは単に研究活動だけではない、ヒューマン・ウォッチングの場であり、人間同士の繋がりをも養っていくことのできる場と実感できた。また、不思議な縁を感じることもあった。人生にも通じるのかもしれないが、ゼミ生がたまたま集まり、日本全国3千数百の市町村の中から吉岡町との関わりを持つに至った。その過程を考えると、偶然と必然が折り重なったものと言わざるを得ない。

教訓じみたことを言うのは趣味ではないが、‘見えざる手’に身を委ねつつ、目の前に現れる現実を直視し、精一杯その時々を生きるのも良いかという気がする。3期生はこれから各方面に進路が分かれ、住む場所も異なることになる訳だが、インターネット上に開設されたゼミの掲示板が新たな結びつきを支えてくれるだろう。時間と距離に縛られることの少ないインターネットの掲示板が3期生の心のよりどころとなることを期待しつつ、門出を祝したい。

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