次世代光ディスク規格戦争
高橋 計永
はじめに
現在Blu-ray DiscとHD-DVDの次世代光ディスクの規格をめぐる抗争は、規格統一に向けて
の話し合いが2005年8月末に決裂し、今後どのような展開を見せるか世界中が注目している。
どちらが生き残るかは消費者がBlu-ray DiscとHD-DVDのどちらを選ぶかによって決まる。
本論文は両陣営の現状・問題を示し、最後に今後の展望を予測する。
この論文が次世代DVDの関連商品を購入する際の参考になれば幸いである。
1.Blu-ray Disc と HD-DVDの現状
Blu-ray
Disc(以下BD)はSONY・松下電器産業・DELLなどが共同策定した次世代DVDの規格である。
名前にあるBlu-rayとは波長の短い青紫色のレーザーのことで、現行のDVDの読み書きには波長の長い赤色のレーザーが使用されている。記録容量は27GBと従来の約5〜6倍になる予定(2005年10月現在)。また現行のDVDと大きく異なる点として、カートリッジ式を採用しており、記録再生面の傷・汚れが防止されている。
現在、BDでのソフト開発を表明した企業として、20世紀FOX・MGM・Disneyなどがある。そしてアップルコンピューターもBDの支持を表明している。
一方HD-DVDは世界標準団体のDVDフォーラムにより2003年11月に次世代DVDとして承認を受けている。東芝・NECが共同提案したAOD(Advanced
Optical Disc)がベースになっている次世代DVD規格。
波長の短い青色レーザーを使う点ではBDと同じだが、DVDと同様の構成のためプレイヤー・レコーダーの開発がBDより容易である。容量は読み専用の片面1層で15GB、片面2層で30GBになる予定(2005年10月現在)。
HD-DVDのみでのソフト販売を表明した企業は、ユニバーサルピクチャーズがあり、INTEL・MicrosoftがHD-DVDの支持を表明している。
またBD、HD-DVD両規格を支持する企業としてHP・ワーナーブラザーズ・パラマウントピクチャーズがある。
今年に入ってBD側のSONYとHD-DVD側の東芝との間で規格統一にむけた話し合いが行われたが決裂した。
しかし、SONYとNECが2005年11月に光ディスク事業を統合した合弁会社の設立を目指す覚書を締結した。この合弁会社の出資率はSONYが55%、NECが45%の予定でBD側のSONYがHD-DVD側のNECを取り込んだ形となった。
既に2005年4月10日、SONYは世界初のBDレコーダーのBDZ-S77を発売しており、Panasonicが同年7月31日にDMR-E700BDを、Sharpが同年12月9日にBD-HD100を発売した。またSONYはBD対応のPS3も2006年に発売を予定している。一方、東芝は2005年に予定していたHD-DVD対応機器の発売延期を決定した。
2.BDとHD-DVDの相違点
BDとHD-DVDの最も大きな違いは、容量とコストパフォーマンスである。
まず、容量についてはBDが最大記録容量50GB超であるのに対して、HD-DVDは30GB程度である(どちらも片面2層の場合)。これは時間にすると約2時間半の違いがある。
次にコストパフォーマンスだが、これはHD-DVDが現行のDVDの延長線上にあるため、開発コストに多額の資金を必要としない。一方BDは全く新しい規格であるため、開発する場合の設備投資に多額の資金が必要となる。
もうひとつHD-DVDには大きな利点がある。それは現行のDVDもHD-DVDプレイヤーで見られることだ。BDプレイヤーの場合、読み取り用のレーザーの照射距離が現行のものと異なるため、同じプレイヤーでは見ることが出来ない。しかし、HD-DVDの場合は照射距離が同じであるため、赤色のレーザーと青色のレーザーを切り替えるだけで容易にどちらも見ることが出来る。
また、BDは発売価格を現行のDVDより10%程度引き上げることを発表した。
3.BDの問題点
BDの問題点はなんといっても現行のDVDとの互換性である。
前述したように、HD-DVDが現行のDVDと高い互換性を持つ反面、BDは開発・使用の面で互換性は全くないと言っても過言ではない。そのため、BDが勝利し生き残った場合、現在使っているDVDは全く利用できず、全てBDに切り替えなければならない。
更にMicrosoftのビル・ゲイツ氏はBDの著作権保護技術に問題がある、と述べている。
それは、BDの著作権保護技術だとPCでの再生が上手くいかなくなるような、映画業界に偏った反消費者的な保護技術であるためだ。
現在PCでのDVD利用が増えているが、BDになるとPCでBDを見ることが出来ず、BDプレイヤーを購入しなければいけなくなる。また自分で撮影した映像をBDとして残した場合、その映像をPCで編集することも出来ない。
しかし、ビル・ゲイツ氏はBDの問題点はそれだけ、と著作権保護技術を改善すれば何も問題はないことを示した。
もうひとつBDの問題点として、割高なディスク製造コストがある。
現状ではまだ将来的なHD-DVDとの具体的なコストの差はわからないが、現在では約2倍近く割高になる可能性があるとしている。
BDを製造する場合、現在のDVDを製造するものとは全く違った機器が必要であるが、HD-DVDを製造する場合は、現在のDVDを製造するラインに多少変更を加えるだけでよい。この設備投資の差は大きく、メーカー側も頭を悩ませるところであろう。
また、HD-DVDと違い、BDは指紋がついただけで読み取れなくなる可能性がある、という懸念から独自のカートリッジ式を採用しており、ノートPC用ドライブの開発が難しく、大きな障害となっている。
4.BDの問題点の解決策
まず互換性の問題だが、日本ビクターが2004年にBDの単層とDVD2層の計3層構造のBDを開発した。
これは表面にBD単層(容量25GB)、内部にDVD2層(容量8.5GB)の構造となっており、BDとして再生する場合は表面部分のBD層を青色レーザーで読み取り、DVDを再生する場合は現行の赤色レーザーで内部のDVD層を再生する仕組みになっている。これにより、現行DVDから新ディスクへの移行も難しくなくなった。
日本ビクターは、このディスクの大容量化にも取り組んでおり、将来的にはBD2層(容量50GB)+DVD2層(容量8.5GB)の計58.5GBの容量を持つディスクの開発を行っている。
次に著作権保護技術の問題であるが、これについてはまずBDが『AACS』、『ROM Mark』、『BD+』という3つの保護技術を採用したために起きた問題である。
『AACS』とはIntelやMicrosoft、SONY、東芝などが策定を進めている保護技術であり、インターネットを介したコピーに対応するなどの機能を持ち、BDだけでなく、HD-DVDにも採用されることになっている。
『ROM Mark』は、BDのみの技術でソフト面に識別子を埋め込むことで、ライセンスを受けたメーカーの機器のみで扱えるため、海賊版の製造防止に役立つものである。
そして『BD+』だが、これは機器の保護技術で、BD機器がハッキング等の行為に対して、その攻撃を受けた機器のみをアップデートなどでフレキシブルな対応が可能な技術である。
現行DVDの大規模な海賊版製造が問題になっている今、この保護技術はソフト制作者側にとって非常に頼もしい技術であるといえる。
今後、消費者の要望に応えた若干の変更はあるだろうが、著作権を保護するためには必要なことであり、問題はないと思える。
3つめに割高な製造コストの問題だが、2005年10月に松下電器産業がコスト高の要因であるディスク表面の保護膜形成の新技術を開発し、来年には現行DVD並みにコストが低減される見通しとなっている。
またBDはHD-DVDと違い、2004年4月にSONYと凸版印刷が共同で51%以上を紙で製造し、更に70%近くまで引き上げる予定である。そして日本ビクターやパイオニアは有機プラスチックによるディスクを開発し、BDは環境に配慮した低コストのディスクの開発が行われている。
最後にカートリッジ式による問題点だが、これもTDKが2005年11月にカートリッジ無しのベアディスクタイプのBD量産用サンプルの出荷を開始した。
ディスク面のキズ・汚れが致命的なダメージを受けるBDがベアディスクタイプに出来たのは、TDK独自の『DURABIS2』というハードコーティング技術を採用したためである。
この『DURABIS2』というのは、英語で耐久性を表す『DURABILITY』と盾を表す『SHIELD』を合わせた造語である。TDKの『DURABIS』にはDVD用の『DURABIS1』、BD用の『DURABIS2』、放送用の『DURABIS PRO』と3タイプある。
『DURABIS2』の特徴には現行DVDよりも約100倍の耐磨耗性、指紋がつきにくい、ディスク面の放電効果が非常に高くチリ・ホコリに強い、そして紫外線にも強いUVプロテクトがある。
この技術によって、BDはノートパソコン用ドライブ開発に関して、HD-DVDよりも好条件が揃った。そして、2006年1月末にパイオニアはBDの読み書きが出来るPC用ドライブの発売を決定した。
5.HD-DVDの問題点
HD-DVDの大きな問題点として、まず挙げられるのはBDと約2倍近くある容量の差である。
HD-DVD側はその差を埋めるため、新しい圧縮技術の利用を提言している。しかし、この新技術は、現行のモノと比べて信頼度がまだまだ低いほか、デジタル放送などの高精細度テレビジョン放送(HDTV)の解像度の精細さが損なわれるという問題がある。また、映画会社はこの新しい技術よりも現行のものを好んでいて、BDへの支持が強い。
もうひとつ問題なのは、やはり支持する企業の少なさである。
消費者が購入を決める際の最大のポイントは、なんといってもソフトがどの程度充実しているかである。
HD-DVDのみを支持するソフト企業はユニバーサルピクチャーズのみである。もちろん、どちらも指示しているソフト企業もあり、また世界最大企業であるMicrosoftが支持しているのは非常に大きな強みになるが、BDのみを支持する企業との差は明白である。
6.HD-DVDの問題点の解決策
まず、容量の差だが、これは先に述べたように圧縮技術を利用することで解決する見通しである。そして解像度に関しては、BDと同じ圧縮技術を採用することになったため、BDとの差はなくなった。更に東芝が2005年5月にHD-DVDの片面3層化と、片面2層HD-DVD+片面2層DVD-ROMの両面HD-DVD/DVD-ROMディスクを開発した。これにより、HD-DVDの容量は最大で45GB(片面3層ディスクの場合)とBDに全く遜色ないものとなった。
しかし、HD-DVD側は、今後ハードディスクでの記録が主流となるため、消費者は低価格の記録媒体を求めている、と言っており、あまり大容量化に積極的ではないと思われる。
そして支持する企業の少なさだが、これは今後のHD-DVD側の開発によって、HD-DVDとBD両方を支持するという企業も現れる可能性はある。しかし、今のところはそのような企業が現れるような気配はなく、やはりHD-DVDとしてはMicrosoft頼みになるだろう。
7.今後の展望
現在の状況はBDが1歩リードしている。
それにはやはり、ディズニーや20世紀FOX、Intel、AppleComputerなどソフト・ハードの両面で支持する企業の多さと、消費者のニーズが多い企業を味方につけている点、また、製造コストの面でも現行DVDと同等である点、著作権保護技術の高さでHD-DVDを圧倒している点、そして今問題になっている環境問題にも配慮したディスク開発をしている点が挙げられる。
また、プレイヤー・レコーダーもHD-DVDは東芝が延期を表明したのに対し、BDは既に3社から発売を開始し、ゲーム機でもSONYがPS3にBDドライブを採用することが決定しているが、HD-DVD側のMicrosoftが発売したXbox360にはHD-DVDを搭載しておらず、現段階で今後搭載する計画も立てられていない。しかし、2006年1月5日にXbox360用の外付けHD-DVDドライブの発売を決定した。
なお、アメリカの調査会社のIDC(International Data Company)社、フォレスター・リサーチ社はBD側の勝利を予測し、日本だけでなくアメリカでもBDが支持され、世界の流れもBDに傾くだろうと予想される。
以上の点から、現在はHD-DVD側にとっては非常に苦しい戦いになっているだろう。
おわりに
過去にVHSとβとの争いに負けたSONYとしては今回ばかりは負けられない戦いである。
世界のSONYを復活させるためにも、今回の戦いに勝利し、低迷している現状を打破したいと思っていることだろう。
一方、HD-DVD側にもMicrosoftが付いており、その影響力は計り知れない。世界最大の企業としてはなんとしても勝ちたい戦いであることは間違いない。
しかし、消費者にとってこの競争は価格の低下・性能・品質の向上などのメリットもあるが、β方式のように負けた方式はなくなってしまう、また2つの方式があることで選択の幅は広がるがわかりづらい、というデメリットのほうが大きい。
今後の流れを見て、よく吟味してから購入するのか、それともその流れを作るのかは、消費者の手に委ねられている。
いずれにせよ、出来るだけ早い段階で決着し、その規格の中での価格・品質競争を繰り広げて頂きたい。
勢力一覧表 |
|
|
方式 |
Blu-ray Disc |
HD-DVD |
容量 |
27GB(片面1層) |
15GB(片面1層) |
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SONY |
NEC |
|
Panasonic |
東芝 |
|
SHARP |
SANYO |
|
日立 |
Microsoft |
支持メーカー |
SAMSUNG |
Intel |
|
Apple Computer |
Universal Pictures |
|
20世紀FOX |
|
|
MGM |
|
|
Disney |
|
《参考URL》
・http://allabout.co.jp/ (AllAbout)
・http://www.durabis.com/index.htm (TDK
DURABIS)
・http://www.watch.impress.co.jp/ (Impress Watch
・http://www.rbbtoday.com/ (RBB TODAY)
・http://dailynews.yahoo.co.jp/ (Yahoo! News)
・http://www.sony.co.jp/ (SONY)
・http://www.nec.co.jp/ (NEC)
・http://www.itmedia.co.jp/news/ (ITmedia NEWS)
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ (Wikipedia)