販促物から見るディーラーのアピール合戦
2012.10.12 110-319 田中和輝
今月の6日7日8日と、13日14日の5日間、お台場では「お台場学園祭」と銘打った自動車と二輪車関連のイベントが行われている。イベントの主なターゲット層は、普段車やバイクに興味を持たない「現代の若者」であり、新技術を搭載した新型車の試乗会や、学生と自動車メーカーとの討論会、ミスキャンパスによるファッションショーなど様々な催し物が企画されている。参加企業は主に自動車メーカーが中心となっているが、協力企業・団体の中には、ミニカー「トミカ」を販売する「タカラトミー」や、「日本科学未来館」なども含まれており、まだ免許を持たない子供たちにも楽しんでもらえるような工夫がされているようである。実際、若者の車離れは深刻である。自動車保有台数が異常に多い群馬県では、車がなくては生活ができないため、若者のドライバーも多く見かけるものの、その大多数は維持費の安い軽自動車やコンパクトカーである。都心部に至っては電車やバスなどの公共交通網が発達しているために、車どころか免許そのものをとらない若者もいるという。税金やその他もろもろの維持費がどっしりと掛かる車よりも、携帯電話やパソコンへと若者の興味が移りつつある中、こうしたイベントは一つの起爆剤となりえるのかもしれない。
さて、私は残念ながらお台場へ行くことはできないため、先日自動車ディーラー巡りをしてきた。試乗をしたのは軽自動車と普通車であったが、どちらも新技術を搭載した新型車であり、私が現在乗っている軽自動車との質やレベルの違いに愕然とした。普通車に引けを取らない内装や、広い室内、加速の良さなど、試乗ではさまざまな驚きを実際に体験したが、今回のディーラー巡りでの目的はこれだけでなかった。試乗の際、アンケートなどに答えてもらえる「ノベルティグッズ」をもらうことも重要なミッションだったのである。
ディーラーのノベルティグッズといえば主にその新型車を模した「ミニカー」を指すものである。少し前までであれば、簡素的なオリジナルミニカーを配布したり、大手の玩具メーカーに委託し、シリーズの一つ(トミカやチョロQなど)として配布や販売したりしていたのが主流であった。もちろん現在でもこうしたものはあるかもしれないが、今回伺った2社については、オリジナルのミニカーにプラスアルファの工夫がされていた。
まずはスズキである。メーカーの主力車種といえるワゴンRが先日モデルチェンジをし、従来よりもさらに低燃費な軽自動車へと進化を遂げた。詳しいことは省くが、今回のモデルチェンジにより、新たにリチウムイオンバッテリーが搭載され、減速時のエネルギーを電力に変え電装品に供給することによってガソリンの消費量を最小限に抑えることが可能となっているという。いわば今回のワゴンRのテーマは「発電」なのであるが、ノベルティのミニカーにもそのメッセージが入っていることがうかがえる。通常のミニカーであれば、プルバック式(後ろに車を引いたら前へ進むだけ)の簡単な作りになっているのだが、今回のものはミニカーが停車した後に、ライトがつくようになっているのである。元からミニカーにボタンが付いていたりしてLEDライト代わりになるようなミニカーはたまにあるものの、このような工夫がされているノベルティのミニカーは珍しいと思う。
次はスバルである。主力車種であるレガシィやインプレッサなどには、「アイサイト」と呼ばれる新技術が搭載されているグレードが用意されている。「アイサイト」というのは簡単にいえば前方の障害物との衝突を回避するために、一定以下の速度で走行している場合に自動的にブレーキがかかるシステムなのだが、ミニカーにもそのシステムを模した機能が搭載されている。「ぶつからない!?ミニカー」と名付けられたミニカーは、その名前の通り実際にミニカーの前に障害物を置いてみると、自動的に感知して止まるようになっている。このような工夫もとても珍しいと思う。
今回頂いた2台のノベルティミニカーに関しては、ミニカーが単なるおもちゃとしてだけでなく、実際の車のウリや特徴を上手に宣伝する役目を果たしているということが言えるだろう。もちろん、カタログなどには事細かに仕様や宣伝文句が並んでいるのであるが、そのような紙面上のものだけでなく、その車を模したミニカーでアピールをするのは面白い手法であると思う。また、子供を持つ親にとっては、ミニカーを無料でもらえるようなメリットもある。それは、子供たちに車に対する興味を持ってもらうきっかけにもなるかもしれない。
日本車メーカーの技術は、本当にすごいものであると思う。ただ、それだけではダメなのである。いかに興味を持ってもらって、乗ってもらえるか。今回のノベルティミニカーのようなアピール方法も、有効な手段の一つであるだろう。