リバースイノベーション 

                         110-065 浦上竜太郎

1 初めに

 

リバースイノベーションとは、最初に途上国で採用されたイノベーションのことである。

当初はダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスの教授であるビジャイ・ゴビンダランジャンが中心となって作られた。特徴的な点としては、途上国で生まれながらも、先進国へと逆流していくことがあげられる。(通常のイノベーションは先進国から途上国という流れになっている。)

本稿では世界市場を支配するレベルまで成長しつつある新興国とその他海外からのリバースイノベーションに関して取り上げる。

 

2 グローバル企業

 

これまでのグローバル企業の経営戦略としては「自国の富裕層向けにグローバル製品を作り、それにわずかな修正を加えて廉価のモデルを輸出する」という方法が一般的だった。

しかし、そもそも所得水準やニーズや社会インフラが全く異なる新興国では、当然、その多くが簡単には受け入れられるものではない。その市場の攻略の為に、白紙の状態からイノベーションを始める必要性があるとすら言われている。もしもグローバル企業が新興国市場を無視した場合、のちに途上国を本拠とする新世代の新たなグローバル企業にこの市場で力をつけられ、その後にはグローバル企業の本拠地である先進国で痛い目に合うことになることも予想されている(このことはGEの会長も同様の懸念を示している)。

例えば、日本の三洋電機をはじめ多くの事業を買収したハイアール社も、最初は中国から始まり、ここまで力をつけてきた。また、日本からだと見えにくいが、中国などではLenovoなどの企業に続き、スマートフォンの分野でも「Xiaomi」や「OPPO」という企業が既に出てきている。これらの企業の製品は、ハイアールの製品同様、コストパフォーマンスの良いとされるスマートフォンである。つまり、リバースイノベーションは、付加的なものではなく、必然的なものと言える。

 

3 新興国

 

かつて、新興国は生産基地であり、決して魅力的な市場ではなかった。しかしながら、現在の新興国市場は所得水準の向上や人口の増加に伴い、消費市場としての魅力を増している。先進国市場とは異なる独特な消費市場が存在するため、「今までの常識とは異なるイノベーション」が必然的なものとなっていることがわかる。だからこそ、先進国企業には発想と行動の大幅な転換が求められている。

1960年代には新興国側にあった日本企業は、グローバル化する社会において先進国市場を圧倒し、成功してきたという経験がある。しかしながら、現在の日本企業は、かつて世界で成功したという絶対的な自信に基づき、かつての方法の延長線上に存在しているといっても過言ではない。それに加え、ほとんどの企業はバブル崩壊の影響もあり、挑戦ではなく、失敗をしないことを重視するという考え方になってしまった。反対に、新興国市場では不確実性が高いため、試行錯誤を繰り返し、失敗しながらのアプローチが必然的なものとなる。それゆえ、新興国に行っても、サムスンやハイアールなどの広告しか見ることが出来ず、シャープやパナソニックの製品が消えてしまったのかもしれない。失敗を恐れるのではなく、失敗してもすぐに状況を立て直すことこそ、新興国では必要となる。このリバースイノベーションはかつての戦後の日本企業の発展のプロセスと似ている。つまり、かつての日本企業が最も得意とすることであったと考えられる。

 

4 超低価格と中品質

 

パソコン・周辺機器メーカーのロジテックは中国市場向けに19.99ドルという手ごろな価格のマウスを発売し、その後、それを欧米でも販売した。スマートフォン業界やパソコン業界などの日系企業に見えるような、日本人向けにフォーカスし、かつ、無理に超高品質化したものが世界で売れるわけがない。また、日本だけではなく他国の場合でも同様のことが起こっている。例えば、携帯電話のカナダのブラックベリー社も赤字に陥っている。これらの共通点としては、超低価格と中品質というグローバル戦略を理解せず、自国の基準に合わせ(もしくは、絶対的にそれが正しいと思い込み)戦った結果だと言える。

上記のような日系企業やその他先進国の企業に見える現象は、イノベーションのジレンマと呼ばれる。イノベーションのジレンマとは、業界トップ企業が顧客の意見に耳を傾け、更に高品質の製品サービスを提供しようとすることにより、逆に失敗を招くことである。その理由としては、まず製品の質を低下させるようないわば破壊的なイノベーションは業界トップの企業には関心の低いものとなっている点があげられる。同時に、技術の進歩の速さが需要を上回ることもあげられる。つまり、トップ企業は高品質の技術を更に向上することを止めず、その一方で、その時点ではそもそも需要が全くない技術であるがゆえに、関心を向けようとはしない。さらに、成功している企業の顧客ニーズや財務状況は どのような投資を魅力的と考えるかに重大な影響力を与えるという点がある。つまり、中品質で低価格の市場であれば参入の必要はないと考え、チャンスを逃す結末となる。

 

5 リバースイノベーションのステップと成功の鍵

 

リバースイノベーションが成功するか否かには、技術力や資金力よりも、どのような組織を構築するか、また、適切な意思決定をすることが出来るかどうかにかかっている。

 

5-1 リバースイノベーションのステップとしては、以下が必要となる。

 

第一に、組織の重心を新興国市場へと移さなければならない。つまり、重要な意思決定者を配置し、成長している市場に資金や注意を移していく必要がある。    

第二に、新興国市場の知識と専門性を深めなくてはならない。社員に数年間の途上国での駐在経験や、取締役会に新興国での経験を積んだリーダーを入れる。さらに、それらのリーダーと新興国での経営幹部との繋がりを深めておく必要もある。

第三に、個人としてはっきり目に見える象徴的な行動をとることで、雰囲気を変えなければならない。多くの人は、目に見えないことには注意を払わず、リーダーが言わないことは信じようとはしない。それゆえ、リバースイノベーションをより現実的なものとするために、CEOはより新興国市場が大切だと伝えていかなければならない。

 

5-2 成功の鍵としては、以下の要因が挙げられる。

 

・権威譲渡とローカル市場を重視する

・リバースイノベーションのためには、取り組む人材や資源などはローカル市場を基準に管理する

・ローカル市場から発生したチームに損益責任、つまり、最終決定権を与えなくてはならない

・上記と同様に、ローカルチームがどのように生産、販売、サービス提供するかを決定する権利をローカルチームに与えなければならない

・ローカルでテストや市場投入を行った後、グローバルでの展開でも検討しなければならない

・上記の際には、全く新しい応用や、さらなる低価格化も検討し、また、自社の利益率の高い製品との共食いも容認する

 

現在の日本企業のほとんどは、現地で交渉を進め、決定は日本本社によって行われているであろう。それゆえ、これらの要因を獲得することは非常に困難なものとなる。しかし、今まで以上に新興国での市場獲得は必要なものとなるため、獲得することの重大さもより増してくる。

 

6 リバースイノベーションの企業例(先進国企業が途上国から持ってくる例)

 

リバースイノベーションの例として、PGGE、レアジョブを取り上げる。

 

6-1 PG 髭剃り(ジレット)のアメリカからインドへの例

 

P&Gのジレットは、アメリカでは80%以上のシェアを誇り、いわゆる先進国での最高品質の髭剃りとして使われていた。同時に、インドでは、ジレットの「マッハ3」など、いわゆるアメリカの低中所得者向けの製品を、別のパッケージで売っていた。しかし、高所得者を除き、インド人のほとんどは二枚刃の剃刀でひげを剃っていたため、アメリカのように受けいれられることはなかった。圧倒的なシェアを持つジレットが成長していくためには、新興国市場を攻略し、この状況を変える必要があった。状況を変えるための戦略として、以下があげられた。

まず、インドにチームを派遣し、顧客調査や小売店、家庭などを訪問し、民族に関しての調査を行った。白紙の状態、つまり先進国の考え方を取り除いた状態で現地を行うことにより、インド人の男性がいかに米国人の男性と違うひげの剃り方をしているかの理解を深めることができた。インド人は一般的に価格に敏感だが、それだけではなく、先進国とは全く異なる方法でひげを剃っていたのである。その方法とは、床に座り、少量の水を汲み、薄暗い中で手鏡を使いながら剃る方法である。また、二枚場の剃刀を使うので、切り傷は日常茶飯事であった。たとえ、先進国では奇異と捉えられるやり方でも、彼らにとってはそれが当然であった。

その後、PGはこの考え方と、世界で圧倒的なシェアを誇るデザイン力を駆使し、インドでの消費者の真のニーズを満たす新しい剃刀を一から開発した。その商品は「それなりに良い」性能を持ち、コストを最小化し、また、インドの消費者向けに、切り傷を減らすための工夫を加えた。製造をすべてインドで行い、インドでのビジネスモデルを構築することにより、価格面でも15ルピー(約0.3ドル)の剃刀と5ルピー(役0.1ドル)の替え刃が実現した(この価格は通常の3%以下である)。一方、マーケティングや物流面では、先進国のように圧倒的なシェアを誇る強力な小売業とのみの関係を結ぶのではなく、「キラナ」と呼ばれるインドの個人経営の小売店ネットワークを強化した。広告に関しては、ムンバイの映画産業で活躍する俳優を起用した、現地向けの伝統的な広告戦略を行った。その結果、PGの剃刀シェアは50%を超すこととなった。

これらは、PGが上記「リバースイノベーションの鍵」の項における、現地ローカル化、また、中品質低価格化など、必要な素材を上手く利用したからだと言える。

 

6-2 GE インドから先進国の例

 

ゼネラル・エレクトリック(GE)の医療機器は途上国では受け入れられなかった。先進国では受け入れられ、また、定番機器になっていたため、決してローエンドすぎるモデルだから売れないというわけではない。正確には、医師たちを失望させているからだ。その理由としては、安い医療費やインフラの事情など、インドの現状とは全くあっていない状況であった。例えば、電気の問題などを取ると、インドの電気環境はいまだに整備されていない場所が多く、すぐに電源が落ちてしまったり、農村部ではそもそも電気が伝わっていない場所すらある。そのような場所で電源が必要なGEの機器の使用は制限されていたり、そもそも使用が禁止されていたりする可能性が高い。

GEは常にグローバル本部が世界での戦略を統括しており、また、機能も縦割りであるため、過去にそのような新興国向けの対策手段はなかった。それゆえ、GEは、まず白紙の状態と捉え、ローカルチームを作り、また、そのチームに公式の意思決定権を与え、グローバルなGEの事業部門が重視している短期的な業績指針は適用しなかった。独自のローカルなチームは、既存製品を新規市場に導入するのではなく、自分たちで新たな製品を作ることを許された。また、それと同時に、「GEウェイ」でうたわれている製品開発の既存のやり方に疑問を投げかけることや、GEの豊富な技術や人材資源を可能な限り使用することが許されていた。その結果、GEと協力する部分と独立独歩の部門をうまく組み合わせていった。

現地チームの目標は、800ドルの心電計を作る事であり、そのために何度もコストカットの試みが行われた。その後発売された新製品では、目標達成のために多くのことが犠牲にされていた。例えば、従来のグローバルモデルに比べ、モニターやデジタルメモリや標準サイズのキーボードや大きな独立型のプリンターなど、様々なものが省かれていた。しかし、それを埋め合わせるものも十分にあった。例えば、重さはわずか1.18s程度であり、書類用のかばんに入れたりして、簡単に持ち運ぶことができた。加えて、独立型のプリンターやモニターを減らすことにより、充電式バッテリーを内蔵し、一回の充電で最低1000件の心電図検査を記録し、もしくは500回も検査するという目標が達成された。また、それにより値段が従来の5ドル〜20ドルから1ドル〜2ドルになったため、今まで医療が届かなかった貧しい農村部の人々にも診断検査が手の届くものとなった。

その後、インドを越えて他国にまで普及させるために、GEはいくつかの手法を取った。まず、国際的な医療機器ショーにこの製品を出展し、いたるところにいる潜在顧客にこの画期的製品に気づいてもらえるようにした。また、マーケティング活動を通じ、医師の診療室にこの製品を設置していった。それにより、営業チームはこの製品がGEの中心市場における脅威ではなく、同時に売上高を押し上げる可能性があることを理解した。最後に、社内のリーダーたちもこの商品を目立たせるように努め、2007年度のGEの年次報告書では見開き2ページをその説明に割いた。リーダーの一人であるジェフリー・イメルトは「これを世界で販売しなければ、中国やインドの企業が販売するだろう」というメッセージを発信した。

その後、中国においても販売を開始するが、その際、中国市場の条件により合致するように販売するため、インドと同様に中国の現地チームに任せることになった。中国の現地チームは、より高度なレベルの機器に余分にお金を払ってもよいと考えていたため、インドの現地チームとは異なる方法で攻めていった。

この製品はインドや中国の特有の制約条件とニーズに一致したものであったが、すぐに先進国でも需要が発生し、最終的には先進国での売り上げが半分となった。例えば、大きなシステムを買う余裕がなかった個人開業医にとっては最適な機器として捉えられたり、簡単に持ち運べるシステムを必要としていたからだ(この製品である「MAC800」は日本でも2009年に発売されている)。

途上国向けのイノベーションは、時として、先進国でそれまでに見向きもされなかったり、価値がないと判断され、取り残されたニッチ市場に思いがけない形で展開していくこととなる。

 

6-3 レアジョブ フィリピンから日本の例

 

レアジョブは、フィリピン人講師が日本で英会話を教える「Skype英会話」業界の最大手である。この企業などが始める以前には、アメリカから英会話講師を招き、実際にグループやマンツーマンレッスンなどで英会話を教えるという形式が一般的であった。しかし、途上国であるフィリピンはかつてアメリカに占領されていたこと、また、フィリピンには多くの言語が存在しており、コミュニケーションを取るために英語が公用語として選ばれていたこと、また、多くのフィリピン人がアメリカや欧米などの大学に留学し始めたことを考慮し、Skypeを利用したフィリピン人英会話のビジネスが始まった。

高い授業料を払って先進国の英語の先生に教えてもらうよりも、途上国の人材を使い、安く、かつ、わざわざ時間をかけて外出する必要もない「Skype英会話」というものを日本に逆輸入したことはリバースイノベーションに当たると考えられる。また、その逆に無駄に高い英会話教室を行っていた日本の英会話学校の方はイノベーションのジレンマが発生しているのではないかとも考えられる。なぜなら、今まで業界をリードしてきたこともあり、ネイティブスピーカーという高品質な講師にこだわり、安く、自宅で簡単にしたいというニーズよりも先に行き過ぎてしまったからだ。

 

7リバースイノベーションの企業例(途上国の企業が世界市場を支配した例)

 

マヒンドラ・アンド・マヒンドラ(インド)の例を見る。

 

7-1 マヒンドラ・アンド・マヒンドラの例(インドからアメリカ)

 

マヒンドラ・アンド・マヒンドラが1994年にアメリカに進出した際、既に母国のインドでは誰もが認める大企業であった。この会社のトラクターは、インドでは非常に評価が高かった。倹約家が多いインドの農民から高く評価される二つの要因である「手ごろな価格」と「燃費の良さ」が備わっており、サイズもインドの小さな市場に適していた。

 マヒンドラUSAが事業を始めた当初、アメリカでは既にディア・アンド・カンパニーの大型機シリーズが市場を支配していた。それゆえ、マヒンドラはトップのディアと正面から戦うことを避け、自分たちが最も力を発揮できる、かつインドで高評価であった小さなトラクターのニッチ市場を狙うことにした。マヒンドラの製品はインド同様、丈夫であり、非常に信頼性が高く、手ごろな価格であった。それに加え、体の大きなアメリカ人にも使いやすいように特大の座席と大型のブレーキペダルをつけるなど、多少の修正を加えた。

ただし、インドとは異なり、アメリカでの知名度はほとんどなかった。また、消費者だけでなく、競合他社ですら新規参入したことにほとんど気づいていなかった。それゆえ、他社とは異なる個人的なサービスを通じてブランドを浸透させていくことにした。既に大企業の商品が扱われている大規模ディーラーではなく、小規模ディーラー、特に家族経営の事業者と緊密な関係を築いた。

マヒンドラUSAは顧客とも緊密な関係を築いた。マヒンドラのトラクターの購入者の約10~15%には、社長みずから電話をかけて、購入体験や新しいトラクターに満足しているかどうかを尋ねた。また、これまで無視されていた、園芸や女性向けのニッチな市場に対し、特別なインセンティブを導入した。このような触れ合いを重視したハイタッチ戦略により、マヒンドラの年間売上高成長率は平均で40%にのぼって行った。これに対抗するべくディアはマヒンドラの顧客を奪おうと、キャッシュインセンティブで必死に追い上げを試みたが、長続きはしなかった。逆に、このことが原因で市場が更に活性化し、思いがけない宣伝効果となったマヒンドラは「ディア・ジョン、もう新しい人を見つけました」というキャッチコピーを用い、やり返していった。

 マヒンドラUSAが現地化した製品で成長している中、ディアIndiaは逆に、アメリカで現地市場向けの成功した商品をそのままの形で追求しようとしていた。しかし、当然のように小型で安価な製品に慣れたインド市場では相手をされるはずがなく、グローバル社会でのリーダー企業であるディアは製品の再設計を余儀なくされていった・

 

8 過去の成功を忘れる

 

上記の先進国のリバースイノベーションの分野におけるP&GGEの例を見ると、共通した考え方が一つ見いだせる。それは、過去の成功を忘れているという事だ。P&GGEも世界で圧倒的な実力を見せていたが、上記の状況下では、過去の絶対的な成功を忘れ、現地のチームに委託し、また、過去の成功のような基準で考えさせず、また、しっかりと意見を言えるような環境を作っていった。

逆に、マヒンドラに圧倒されかけたアメリカ企業のディアは、かつての成功を絶対的なものと考慮し、他国の名も知られていない企業が入った際にも何も対策を打たず、また、逆に他国に進出する際にも自国の成功のみの基準で考え、新興国市場の企業に負けていったということもある。

多くの日本企業に同様のことが言える。今までの日本では規模の経済で勝っていた。つまり、コスト効率に優れた方法で高性能の製品を作り、規模の経済により得た成功となった。しかし、上記の例に見られるように、現在必要とされているのは、リバースイノベーションに特化した現地の組織を作り、また、十分な決定権を渡すことである。バブル期の一時的、かつ自然な成功に慢心し、海外の決定を日本に持ち帰ることを重視していた多くの家電メーカーが新興国企業に負け、倒産間近まで追い込まれている理由はここにあるのかもしれない。

この項の最後に、日本企業の現状を最も表していると考えられるこの言葉を引用したい。

「成功体験は人を成長させる。それは事実だ。だが、時間がたち、周囲の環境が変わったとき、賞味期限が切れた成功体験はむしろ足かせになる。」(下記、参考『100円のコーラを1000円で売る方法2P123による)

 

9 新興国企業が日本に攻めてきたとき、日本企業はどうすべきか?

 

香港の小型モーター会社のジョンソンエレクトリックは日本のマブチモーターを脅かす存在になりつつある。その理由としては、日本が優れているものづくりの技術で超えたというよりも、欧米型のM&Aを主流としたスピード感のある経営戦略の考えを持った人材が本社に多く、それゆえ、M&Aを通じ、素早い成長を図り、技術でも超えようとしているからだ。これについては、数年前にはシスコシステムズの足元にも及ばなかった世界一のICT企業となったファーウェイも同様である。

そのような状況に対して、日本企業で考えられる対抗戦略としては、地域戦略とM&Aによる買収戦略があげられる。前者の例を取れば、例えば、ダイキン工業の戦略のように、アジアはアジアであったり、アメリカはアメリカであったりなど、地域を完全に分け、それぞれで攻めていくというやり方がある。それとは別に、ダイキン工業のように自社のコア技術を新興国市場の企業に提供しているという例もある。これは、逆に自分たちが出来ない分野でのモノづくりを教えてもらい、家電メーカーに見えるようなハイエンド商品だけではなく、ローエンドやミドルエンド商品を開発し、新興国市場のためのリバースイノベーションにつながる結果になるとしていると考えられる。

M&Aの例としては、最近までの円高の影響もあり、日本企業は多くの海外企業の買収を図っていたことがあげられる。例えば、シンガポールで行われている日東電工の水ビジネスのように、日本を主軸にするのではなく、シンガポール、つまり、全く日本と関係ない場所で独自に権利を持たせ、活動させていることがある。これらは、日本にいちいち成果の報告などの決定権を持たせる必要もなく、なおかつ、現地のスタッフのみで行えるビジネスであるため、今までの日本の企業とは異なり、新興国市場での活躍がより期待されるものとなっている。

 現在の多くの日系企業は、現地に日本人を派遣し、日本の本社に何度も何度も意思決定のためなどの報告が必要となる企業が多いが、今後、日本の本社は意思決定のスピードを上げることやリバースイノベーションのステップとして、M&Aや地域本社を作り、それらの管理を行うという立場になっていくのかもしれない。現に、三菱商事などでは、意思決定権を持っている地域本社をシンガポールに移動したとも聞いている。

 

10 成功のためのシナリオのまとめ

 

 リバースイノベーションの旅は、会社のコア製品が途上国の市場で西洋の壁に突き当たった時に始まるときが多い。新興国市場の成長が世界のGDPの多くに占めているため、決して無視できるものではなく、万が一、無視してしまった場合、将来的に非常に大きな損害になっていく。つまり、途上国で自社が成長していないという事は、会社自身が全く成長していないという事にもなる。

 この時、最も当てはまるのは自社製品が途上国に適してないということである(第4項におけるイノベーションのジレンマがこれに当てはまる)。そうなれば、ただ輸出するだけでは通用しなくなり、イノベーションが必要になる。同時に、途上国の現時点では無名の企業が、自社よりも圧倒的な速度で成長するため、不安要素となっていく。

新興国市場の攻略のためには、例えば、一週間程の出張や研修では理解できない事はすでに明白になっており、白紙の状態から再スタートする必要がある。また、その地域でチームを結成し、同様に白紙の状態から一からビジネスを作っていかなければならない。そうすると同時に、グローバル組織のスキルと資源を使うこと、また、地域のチームとグローバル組織が健全な関係を構築できるように努力する必要もある。

その商品が新興国市場で結果を出した場合、その商品が世界の他の地域で成功するチャンスはないかを探す必要がある。世界中の新興国で似たような多くのニーズがあり、また、先進国でも取り残されたニッチな市場に対しての圧倒的な製品になる可能性があるからだ。

その後、会社のCEOは、更にリバースイノベーションを強化するために、ローカルチームに投資を行い、また、途上国の経営幹部に経営責任を担わせ、直接CEOと会話できるようにする。また、多くの経営幹部や社員に新興国市場に関連したイベントや研修を行い、新興国市場を重大なテーマとする。

これらは、決して慈善事業ではなく、ビジネスとしてとらえる必要がある。なぜなら、世界で貧困層としてとらえられている人々は、逆を言えば最も成長する可能性のある層であり、なおかつ、先進国の市場規模よりも圧倒的に大きな市場になっていくかもしれないからだ。

 

11  最後に

 

「決定をわざわざ日本に持ち帰り、いちいち意思決定に無駄な時間をかけている日本企業は外資系企業には勝てず、このままの状態だと日本企業はさらに負けていき、将来的に、例えば、日本の若者が出稼ぎに行かなければならなくなる。」という予想を聞いたことがある。既に、若者の多くは非正規雇用で働いており、なおかつ、企業が外国人留学生を多く雇用し始めていることもあり、この現実は近づいているのかもしれない。

また、現在、新興国市場から大きなダメージを受けている家電メーカーや半導体や電子部品分野のみの問題であり、重工業やプラント部門など、メンテナンスで多くの高い技術力を持った人材が必要であるために、新興国には現在追いつけないと言われている分野もある。しかしながら、それらの分野も決して未来永劫追いつかれないという保証はない。10年後になったら、新興国も先進国の仲間入りを果たしている可能性もあり、技術でも追いつかれる可能性があるからだ。

これらの解決策として、リバースイノベーションを含め、例えば、若者をアジア支店で働かせて、結果を出した社員を日本本社に戻し、将来的なキャリアを約束していくという策もあるかもしれない。そうすれば、世界の経済の中心になりつつある新興国市場に対応できる日本人が出来、また、雇用も守られ、非正規雇用で働く若者の比率も減っていくかもしれないからである。逆に、日本の企業がさらに若者を軽視し続けた場合、現在、首を切られてしまった後に新興国の企業にヘッドハンティングされた家電メーカーや半導体分野の社員と同様に、逆にどこかの途上国の企業が日本の市場を攻略するためにその若者たちを使い、将来的な巨大な敵として立ち向かうという可能性もあるだろう。

 

参考:

『リバースイノベーション 新興国の名もなき企業が世界市場を支配するとき』

ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著 ダイヤモンド社 2012年初版

ダイヤモンド社書籍オンライン リバースイノベーション講座

http://diamond.jp/category/s-reverse

100円のコーラを1000円で売る方法 1、2、3』 

永井孝尚著、中経出版、2013年初版

ブラックベリー赤字拡大 6〜8月期

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130928/biz13092800050000-n1.htm

GE横河メディカルシステム 解析機能付心電計「MAC800」を新発売

http://www.innervision.co.jp/041products/2009/p0907_14etc.html