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◆ストレスへの具体的な対処

 ソーシャル・スキル・トレーニング(social skill training)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の医学部精神科Robert Paul Liberman 1937 -)考案

困難を抱える状況の総体を「ソーシャルスキル」と呼ばれるコミュニケーション技術の側面からとらえ、そのような技術を向上させることによって困難さを解決しようとする技法[i]

 

  ・教示(重要性に気付かせながらことばでスキルを教える)

  ・モデリング(スキルの見本を見せて真似させる)

  ・ロールプレイ(頭の中、実際の行動で何度も繰り返して練習する)

  ・フィードバック(やってみたことを褒めたり、修正したりしてやる気を高める)

  ・ホームワーク(練習したスキルを実際の場面で使えるようになるための宿題を課す)

という一連のセッションを通じてスキルを学習させる。

 

 

 

◆職場のサポート

 (1)ソーシャル・サポート

  同僚、配偶者、友人よりも上司による支援が最も有効であるという報告が多い。[ii]

  道具的サポート・・・ストレスを解決するのに必要な資源を提供したり、その人が自分でその資源を手に入れることができるよう情報を与えたりするような働きかけ

  社会情緒的サポート・・・ストレスに苦しむ人の傷ついた自尊心や情緒に働きかけてその傷を癒し、自ら積極的に問題解決にあたれるような状態に戻そうとする働きかけ

  

 ソーシャル・サポートがどのように働くかについては、ストレスに伴う困難や苦痛を直接和らげたり、予防したりするという直接効果説と、ストレスが高いときに症状を悪化させないという緩和効果説がある。サポート提供者がいるかどうかや、その人数の多少といったネットワークサイズは直接効果を、サポートの入手可能性の期待についての近くは緩和効果を示す傾向がある。(Cohen & Wills ,1985)

 

 

 (2)危機介入

  昇進による責任の増大、配置転換などの変化は強いストレスになり得る。

こうしたストレスに対して人は以前から用いてきた対処方法で解決を試みるが、これがうまく

いかない場合は 緊張、不安、無力感が増大して危機(crisis)に陥ることになる。

危機そのものは乗り越えることで好転するか、慢性化して病的状態へと陥るかの分かれ目。

危機期状態に陥っている人は自分ではどうすることもできないという心細い気持ちになって、通常より効果的な行動がとれなくなる。

 

  危機状態はせいぜい56週間ほどと短いものの、周囲の迅速なサポートがなければ病的状態に進みやすくなる。職場は早期に専門的援助へ結びつけることが肝要となる。

 

危機介入は危機状態にいる人のパーソナリティ資源のポジティブな側面と、ソーシャル・サポートなどの外部資源を積極的に利用することでとりあえず以前の均衡を回復させることをめざすものである。→ 均衡に戻ることで多くの人が再び自力で自分の問題を解決できるようになる。

 

また、より具体的なサポートとして、組織サポートがあげられる。

組織サポートとは組織が成員による組織への貢献をどれくらい尊重し、成員の安寧(Well-being)をどれくらい気遣っているのかの程度のことである。

 

POS(Perceived Organizational Support):知覚された組織サポート

組織成員が組織サポートについて形成している全体的な信念(global beliefs

組織サポートは組織の人格化を通じて組織成員に供与される。

(組織の人格化・・・組織成員が自らの組織の代理者(上司など)のとる行動を組織そのものの行動と見なすこと。)

 

POSが高い従業員ほど、欠勤が少なく、慣習的な職務を責任を持って遂行しようとする傾向が強く、組織への情緒的な関与が高く、高い業績をあげればそれに見合うだけの高い報酬を得ることができるという期待を強く持ち、組織にとって好ましい革新的な意見を提案する傾向が強い。

 

 

以上のことから上司と部下の支持的な人間関係は直接的な接触を通じて、日々の仕事への動機づけを高め、緊張を緩和し、他方では組織の人格化による組織サポートの供与を通じてより長期にわたる組織活動への柔軟な対応を促進することがわかる。

Eisenberger , Huntington ,Hutchinson & Sowa,1986 ; Eisenberger, Fasolo & Davis-LaMastro,1990

 

 



[i] Wikipedia ソーシャルスキルトレーニング

[ii] Etzion ,1984 ; Russell et al., 1987など

 

参考文献

外島裕・田中堅一郎『臨床組織心理学入門 組織と臨床への架け橋』 ナカニシヤ出版2007

 

南隆男/浦光博/角山剛/武田圭太『組織・職務と人間行動 効率と人間尊重との調和』

株式会社 ぎょうせい1995