パーソナル・スペースの実験   2011/6/11    沖 秀大

 

 

今回は、『大学生の親友・両親との関係と会話時のパーソナル・スペースの関連について』(今川峰子. 2011/3/1)について調べた。この研究では、交友関係の診断テストを開発するため、大学生234名を被験者として、パーソナル・スペース検査と自己開示性(自分の内面を話すこと)、親和性(誰かと一緒にいたいか)、同調性(意見や価値観が違っても合わせる)、葛藤(近づきたいけど近づけない、またはその逆)等を測定する検査を実施している。

 

 

 検査の結果は、父親・母親とのパーソナル・スペースにおいて、男子学生の場合には、父親・母親が心の拠りどころであり、悩みを話し相談する相手であっても、必ずしも物理的に接近した距離をとることはない。一方、女学生では、父親・母親への親和性が高く、悩みを話し相談する程度が高いほど、物理的に接近した距離をとる結果となった。しかし、今回の検査では親友と男子・女子学生の自己開示・親和性とパーソナル・スペースの関連性は認められなかった。

 児童・生徒(小学四〜中学三)を対象に、今回の研究と同様の方法で検査した結果では、親友とのパーソナル・スペースの距離において男女共通して自己開示・親和性が高いほど親友とのパーソナル・スペースは狭くなっていた。同様に、父親・母親についても同様の結果が得られた。(今川 2009)

 

 この研究の結果から、大学生の場合には、親密な関係とはいっても必ずしも物理的に接近した距離をとるとは限らないことが分かった。

 高校生・大学生になるに従って、友人とは違う価値観を強く意識し、相手に合わせるだけでなく自律的な態度が培われるために、無理に接近した距離をとる必要がなくなると考えられる。

 インドでは、夫婦関係が破綻し、全く愛情が持てなくなった相手同士でも、社会的に離婚していない夫婦同士ではパーソナル・スペースは狭いとの研究が報告されている。公式の場や職場では大人ほど性差、年齢、社会的地位、職業などを考慮して相手とのパーソナル・スペースをとる。大学生と児童・生徒の結果が異なったのはこのためとも考えられる。

 

 

今川峰子 現代教育学部紀要 2, 35-47, 2010-03  中部大学現代教育学部

http://ir.bliss.chubu.ac.jp/cgi-bin/retrieve/sr_bookview.cgi/U_CHARSET.utf-8/XC10000004/Body/035_imagawa.html (2011/6/2