混みあいにおける人間関係       2011/10/14 109-107 沖 秀大

 

 

 

互いの個体距離を侵しながらの生活は身体に多大なストレスをかけることが動物の実験からわかった。では、人間の場合において、そのような傾向がみられるのだろうか。

 

 

「混みあい」による親族殺人事件

 

昭和五七年、ある市内の県営住宅に住んでいた中国帰国者の家族が酒に溺れた次男を絞め殺すという事件が発生した。

 この次男は日本語が話せず就職できなかったためなのか、毎晩のように酒を飲み暴れたという。こうして困り果てた末に起こった殺人事件だった。三男と四男が殺人罪に問われたが、二審判決で執行猶予になった。その理由に、この事件の背景には異常な「混みあい」が存在していたことが影響している。二組の夫婦を含む一家七人家族の住宅は2Kで、三人の男性が六畳間に、四人の女性が四畳半に寝ており、内一人は押し入れの中で寝ていた。さらに、見知らぬ異郷の土地では外出をする機会も制約されるため、必然的に狭い空間(家)に閉じこもった生活が多くなり、そのことが混みあいの影響を増大したと考えられる。

 そのため、二審判決で裁判官は、「狭いアパートも事件の誘引であった」と認め、執行猶予とされた。

     この事件から、混みあいによるストレスは人間においても動物と同じような影響を及ぼすことが認められる。

 

 

1979年、EU委員が日本の住宅を「ウサギ小屋」と揶揄してマスコミの話題になった頃、東工大の小林陽太郎らが都市生活者の居住条件と健康・精神衛生に関する調査を行っている。それによると、夫婦が健康な精神状態を保つためには一人当たり三・五畳の居住スペースを必要とすることがわかった。

また、混みあいと家族のなかの人間関係を調べた研究がある。その結果、@家屋内の密集度が高まると、攻撃的行動などのネガティブな行動が多くなる。A家が密集地域にあると、隣近所が気になるので、よほどの理由がない限り子供を叱らなくなる。B家屋内が密集しているかどうかの受け止め方は、同居する人同士の人間関係や住居の造りに左右される、ことなどが明らかにされている。

 

これらのことから、混みあいは家族関係にとって好ましくないものであることがわかる。しかし、混みあった家に住んでいても何の影響もない家庭もたくさんある。家族それぞれの空間が足りてない場合は、空間の使い分けを工夫したり、できるだけ好ましい人間関係を築いたりすることによって、密集の悪影響を少なくする自衛策が取られていると考えられる。