動物のスペーシングについて 2011/7/1 109-107 沖 秀大
なわばりのほかに個々の動物は、泡のような不規則な形をした風船のようなもので囲まれており、それが個々間のスペーシングの維持に役立っている。動物心理学者のへーディガーは、多くの動物がなんらかの形でこの意味で利用していると考えられる距離を判定した。
異なる種の個体がであったとき
逃走距離
道ばたでネコに出会った時、近づいてもじっとしているが、ある一定の距離以上近づくとネコが突然逃げ出す。この距離を逃走距離と呼ぶ。これはネコだけでなく、多くの野生の動物が同じ反応をする。原則として、動物の大きさとその逃走距離との間には正の相関があり、動物が大きいほど敵との間に置くべき距離が大きい。
臨界距離
ライオンなどは逃走距離まで近づくと、いったん向こうに逃げていくが、さらに近づくと身体を反転させ人間の方へと近づいてくる。この逃走距離と攻撃距離との間のせまいラインのことを臨界距離と呼ぶ。つまり、逃走反応が見られる場合には、臨界距離あるいは臨界距離帯が存在するようである。
同じ種の個体がであったとき
個体距離
ヒツジやブタのように、群れをなして他の個体とくっついて暮らす必要性がある接触性の動物と、ネコやネズミのように仲間同士でも他の個体とある程度距離をとって暮らす非接触性の動物がいる。この非接触の動物で、仲間との間におく最低限必要な距離、または正常な距離を個体距離と呼ぶ。
社会距離
鳥が群れになって飛ぶとき、それ以上離れると群れからはぐれる距離のことを社会距離と呼ぶ。これは接触性の動物にみられる。
逃走距離、臨界距離、個体距離、社会距離の実際の距離は種によって異なる。また個体距離は、グループのなかの社会的順位が高い個体ほど大きい距離を持つ傾向がある。
動物における空間的な行動について
動物を比較研究することは、人間の空間要求がどのように環境に左右されているかを知る手掛かりになる。人間ではできないが、動物になら、動物の利用しうる空間をいろいろと変えてみて、彼らの行動がどの方向に、どれだけの早さで、どの程度まで変化するかを観察することができる。また、動物を用いれば時間を加速することが可能である。なぜなら動物の一世代人間に比べて短いからである。マウスを例に挙げると、40年間で440世代ものマウスを観察することができる。
文化の体系が行動を根本的に異なる型にはめてゆくのは事実である。しかし、文化というものは、やはり生物学と生理学に深く根ざしたものといえる。したがって、現代文化の一部をなすプロセミックス系を観察し、記録し、解析しようとするならば、どうしてもその系の基盤をなす行動のシステム、つまり動物に認められるものを考慮しなければ
動物行動学の基本的な概念であるなわばり行動(territoriality)は、動物がある土地を自分の土地だと主張し、同じ種の他個体から防衛する行動と定義されている。なわばり行動は多くの重要な機能をもっており、新しい機能がつぎつぎと見出されている。動物心理学者であるヘーディガー(H. Hediger)はなわばり