パーソナル・スペースからみた被虐待児の家族関係2 2011/6/24 沖秀大
この研究では、とある児童養護施設の小学3〜6年の被虐待児、男女計18名を対象にして家族・友人とのパーソナル・スペースを測定し、ネグレクトと身体的虐待の違いを明らかにすることを目的にしている。18名のうち、ネグレクトが11名、身体的虐待が3名、親の事情による養育困難が3名、家庭内暴力からの避難が1名である。
その結果、ネグレクトの児童は普通家庭の児童に比べ、パーソナル・スペースが広くなっていた。これはネグレクトでは幼少期に親との愛着を強化することができず、児童期になっても親との安定した信頼関係が成立していないために、虐待者である親だけでなく、祖父母や友人とのパーソナル・スペースも大きくなっているためだと考えられる。
一方で、母親や同性とは離れ、逆に異性との距離が極端に小さいケースも認められた。この、年齢不相応な異性への接近が、不純異性交遊や安易な同棲につながる危険性が考えられる。
また、身体的虐待の児童はネグレクトの児童の場合とは異なり、虐待者である親とのパーソナル・スペースは接近したままである。父親からの身体的虐待が激しい女児は、父親とのパーソナル・スペースが母親よりも近い結果となった。これは、児童が、虐待の理由を自分が悪い子であると過小評価し、親から捨てられることに不安を抱き、たとえ親に叩かれてもしがみ付くために虐待者である親に接近するためだと考えられる
一方で、身体的虐待の児童には年齢に不相応で、相手との関係を考慮しない抱きつきや甘えが見られることがある。
なお、養育困難と判断した3名については、虐待の範疇に入らないケースであり、一般家庭の子供の対人距離とほとんど違いが認められていない。
寮父、寮母の方が父親、母親よりもパーソナル・スペースが近いケースが見受けられるとともに、虐待を受けてなお親のほうが近いケースも見受けられたことから、児童期において親の存在の大きさが理解できる。
家庭環境や、幼少期、児童期に親が子に対し、どのような接し方をするかによって子供のパーソナル・スペース、ひいては性格が大きく左右されることがわかった。
ネグレクトでは、パーソナル・スペースが広くなる傾向があることがわかったが、一般家庭の子供でパーソナル・スペースが広い原因は何なのか調べていきたい。
今川峰子 岐阜聖徳学園大学教育学部 「パーソナル・スペースからみた被虐待児の家族関係」
http://ci.nii.ac.jp/els/110000038858.pdf?id=ART0000369701&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1308836405&cp=