第1回&2回
2011/4/8 109-107 沖秀大
パーソナル・スペースとは
他人が近くにいると、その人の存在が気になり、なんとなく落ち着かない気持ちになる。遠くにいる人は気にならないが、近くの人が気になるのは、自分自身の占有空間のなかに他人が侵入しているからだと考えられる。
一人ひとりが持っていると考えられるこの空間が、パーソナル・スペース(個人空間)と呼ばれる。パーソナル・スペースは、人の体を直接に取り巻く目で見ることのできない空間領域である。
一般に、自分のパーソナル・スペースが保障されているときは快適であり、逆にこの空間に他人が侵入すると不快になる、と考えられている。
パーソナル・スペースを研究した実験その1
(Middlemist, D. R., et al.,
1976)
次の3つの条件で、男性の被験者にトイレを利用してもらう。
@ すぐ隣のトイレで他者が排尿している
A 一つ離れたトイレで他者が排尿している
B 誰もいないトイレ
それぞれのトイレで、被験者が「用意の体勢に入ってから排尿を始めるまでの時間(A)」と「排尿自体にかかる時間(B)」を計測する。
この結果、@の条件ではAが長くなり、Bが短くなる傾向があり、AとBの条件ではほとんど差は出なかった。@の条件は何となく落ち着かない感じがするのでできれば避けようとする。これは自分のパーソナル・スペースを確保したいという気持ちの表れである。この実験から、パーソナル・スペースの重複は生理的な影響が出ることが分かる。[i]
パーソナル・スペースの定義
パーソナル・スペースについてさまざまな定義が提唱されており、大きく分けて3つの空間であると解釈されている。
u 自我の拡大した空間
u Sommer, R.
パーソナル・スペースは、他人が侵入することがないような、個人の身体を取り巻く目に見えない境界線で囲まれた領域であり、この領域に侵入しようとする者があると、強い情動反応が引き起こされる。この個人を取り巻く気泡は周囲の状況と、自己を防衛する必要が、どの程度あるかについての意識的あるいは無意識的な知覚に応じて、縮小したり、拡大したりする自我の延長であるとみなすことができる。
u Horowitz, M. J.
身体緩衝帯の概念は、(身体を越えた)非物質的な空間にまでも人の自我概念が広がっていることを示している。…自我は近くの人々とその人たちに対する態度からも成り立っている。したがって、身体緩衝帯の大きさ、形、侵入のしやすさは、その人の現在の自我の状況と動機づけの状況、そして対人的な相互作用の内容によって変化する。
ウィリアム ジェームズ
人はつながりのあるものにまで、自己が広がっているように感じる
l 自己を庇護する空間
u Dosey, M. A.& Meisels, M.
パーソナル・スペースは庇護の目的のために利用される身体緩衝帯であると考えられる。そして、パーソナル・スペースは身体を傷つける恐れから自己を守り、自尊心を庇護するために使われている。
つまり、パーソナル・スペースを十分確保することによって、自分の体が傷つけられる恐れを和らげ、情緒的に安心感を得ることができる。そしてパーソナル・スペースを利用することで、自尊心が脅かされるような恐れを取り除いたりすることができるということ。
l コミュニケーションの空間
u Hall, A. T.
人は体を取り巻いている泡のような距離帯を持ち歩いており、他人とどのようなコミュニケーションを交わす意図があるかに応じて、この泡の大きさが変化する。また、その折々のコミュニケーションにふさわしい距離帯を使えない人のなかには、他人との接触がうまくいかない人もいる。
つまりパーソナル・スペースとは、人の体を取り巻く泡のような空間であり、その人と共に運ばれ、さまざまな人間関係をより円滑に行うために伸縮するような性質を持っているといえる。[ii]