2010年11月26日
107-347 野村 雄基
今も変わっていないバブル構造
そもそも金融市場がカジノ化して、投機的行為が止まらなかった背景には、人間のグリード(強欲)のコントロールという問題がある。多くの経営者やトレーダーは短期の利益を追求するあまり金融市場の不安定化を容認してしまった。今のところ、利益追求に駆られた人々の思惑を上手に制御する知恵はないように思う。
平常時での市場
現在、世界経済の回復が進行中だが、金融政策はなお巨大な過剰流動性を放置することに寛容である。これは、投資ファンドなどの投機マネーがレバレッジをかけやすい環境でもある。投機が起こる基本図式はレバレッジをかけた投資にある。利鞘を稼ぎたいファンドがどこかに高利回りが得られる投資対象を見つけると、そのファンドはより低い金利で資金を調達してきて、利鞘を稼ぐことが可能になる。
その図式を単純化して描いてみる。今、5%の予想利回りが得られる投資対象があって、年率2%の調達コストで借り入れができるとすると、投資家は3%の利鞘を狙ってその投資対象を大挙して買いに来る。自己資金の少ない投資家でも、数倍の借入をして投資を仕掛ければ、自己資金に対して高収益率が得られる。これをレバレッジ効果と呼ぶ。ただし、うまい投資先があれば、ほかの投資家も同様の取引を行うはずであり、5%の予想利回りの資産は、価格が高騰すれば予想利回りは2%近くまで、低下して取引のチャンスは失われる。市場が効率的ならば、そうした機会は瞬時に解消されて、「ただ飯はない」状態に戻るのである。
バブル時での市場
ところが、経済の平常時には収益率が割高な投資先を探しだすことは至難の業でも、一旦、経済が混乱すると、多くの投資家が総悲観に陥ってミスプライス生じることはあり得る。例えば、リーマンショックの翌月末の日経平均株価は、7162円(終値)だった。これは、先行きに何が起こるかわからない不確実性に見舞われた時に、ほとんど多くの投資家がリスクを過度に意識して、資産価格は割高だと考えるからだ。市場には買い手がいなくなり、市場価格はみんなが十分に割安と感じる水準まで下がる。このように市場に行き過ぎた悲観論が渦巻いているときは、そこで形成される資産価格は、長期的にみて割安になりがちである。
そのような場合、根強い悲観にとらわれている日本の投資家ではなく、強気の相場観を抱いている海外投資家が参入してきたとしよう。日本の株価は海外投資家によって牽引されて、海外株価並み上がっていく可能性がある。1999年のITバブル、2005年の郵政解散後の株価上昇は、海外投資家が牽引した相場であった。国内投資家でも、過去に大きな損失を出した経験を持たない若いネットトレーダーは、海外投資家が全体を牽引する株価上昇局面では、機敏に日本株投資を増やした。ネットトレーダーの中にはバンドワゴン(行列の先頭にいる音楽隊)に追随するように、上昇相場を追いかける者もいた。
一方多くの国内投資家は、慎重な見方を払拭できずに、ミスプライスに対して積極的なポジションをとることができない。投資対象の予想利回りの中にリスクプレミアムが差し引かれて、表面利回りは5%であっても、リスクを加味すると実質1〜2%しか実入りが得られないのではと心配する気持ちが投資を慎重化させるのである。敏腕トレーダーは悲観論に過剰反応して資産価格が割安になるバイアスを見抜くことで、しっかりと市場の上前をはねることができる。しかし往々にして経験を積んだ投資家ほど、サラリーマンとしてバブル崩壊に苦しめられた教訓が埋没費用となって、機敏にリスクを取れない傾向がある。
今後の展開
だから、今後、日本の資産価格が上昇する局面では、海外投資家が主導する相場展開になりやすい。裏を返せば、国内投資家が率先してリスクをとって日本の相場を牽引する可能性は低いであろう。
参考文献
熊野英夫『バブルは別の顔をしてやってくる』日経プレミアムシリーズ(2010)