20101119

107-347 野村 雄基

不況はバブルの母

 バブルを繰り返さないためには、百の論拠を聞くよりも、歴史から学びとることが重要である。そのためにまだ生温かい21世紀初頭の記憶を振り返っておきたい。

 

21世紀は不況から始まった

 21世紀が不況から始まったことはあまり知られていない。世界経済は2000年秋のITバブル崩壊の影響で悪化が進み、2001年初めには本格的な下降局面にあった。そして21世紀の初日からわずか2日後の200113日は、FRBの電撃的な利下げで始まった。経過を追うと、2001年からのFFレートは9.11テロ事件の直前までに6.5%から3.5%にまで下げられた。そこに9.11テロ事件が起こって、経済悪化が進み、政策金利は20036月の1%まで断続的に引き下げられた。

 9.11テロ事件のインパクトは、ITバブル崩壊に心理的な追い討ちをかけた。史上空前のテロ事件は、2001年当初の楽観的な見方を超悲観論に転じさせる雰囲気を作り出した。

 このFRBの利下げは、不幸にもテロ戦争とタイミングが一致したことによって、金融緩和の長期化を余儀なくされた。FFレートは20036月から20046月までの1年間にわたり1.00%いう超低利に抑え込まれた。

 

超低金利の結果

 この金融緩和が果たした役割は、米国に隠れた資産インフレを作ったことだった。低金利は、家計の住宅取得を促し、住宅価格は2003年、2004年と上昇基調を強めた。住宅価格の上昇は、株価下落のダメージを完全にカバーすることができ、4年近く2桁の伸び率となった。住宅ローン会社は、家計が債務水準を増やしても、住宅さえ差し押さえれば損失が生じないと高を括り債務者に対する審査はルーズになっていった。サブプライムローンはこうした過度の楽観によって多くの低所得者層に融資されたのである。

 

 さらに住宅価格上昇を担保とした家計の信用拡張は、過剰消費体質を生みだした。ホーム・エクイティ・ローンは、住宅価格が値上がりし、ローン債務残高を上回るようになった部分に、貸出枠を設定して、消費に回せる資金を融通できる仕組みである。所得水準が高くない人々は、ホーム・エクイティ・ローンを使うことで、高級車購入など身の丈に合わない消費にまい進することができた。このホーム・エクイティ・ローンという新型手法はまさしくバブルの申し子であるが、バブルの当時、新しい仕組みへの危険性には警鐘は鳴らされないのである。

 

参考文献

熊野英夫『バブルは別の顔をしてやってくる』日経プレミアムシリーズ(2010