20101112

107-347 野村 雄基

バブルは繰り返ししてやってくるB

 

 前回、悲観しすぎの不均衡が、やがて楽観しすぎの不均衡を生み出す原因をつくると述べたが、この種のバイアスは、経済政策の運営でも二重写しのように起こる。バブル経済が崩壊した後で、中央銀行は極端な政策緩和を打ち出す。中央銀行は景気悪化を癒すために、投機がコントロールできなくなるリスクを感じながらも、経済の早期健全化を目指して、行きすぎるくらいの緩和に踏み切る。これができるのは、中央銀行がいつでも投機を止めるためのブレーキをも持っており、緩和を止める引き金を適当な転換点で引けると考えるからだ。

 ところが、直面しているバブル崩壊が深刻なとき、中央銀行は思っていたようにブレーキを踏めない。バブル崩壊の傷が大きく、傷を負った企業や金融機関から慎重論やプレッシャーが出てくるので、投機拡大への対処はその摩擦力に難渋して遅れることがあり、金融引き締めはすべからく嫌われる。しかしそれらの企業や金融機関の声を聞いていると、もう一方で進む投機には対処できなくなる。過去の不均衡が原因になって、次の不均衡が作られるというのは、まるで不均衡がバトンを渡していくような悪循環である。

 

そうした悪循環の歪みを起こさないためには、景気過熱を起こさず、経済対策のやりすぎも慎むことが肝要である。政治家や政策当局者は、過度に危機感を煽ることを慎み、人為的な景気てこ入れに走れば、将来の経済に歪みが起きやすいことを十分に承知しておくべきだろう。つまり、バブルを起こさないための堅実路線とは早めにブレーキを踏み、あまりに強くアクセルを踏み込まないことである。

 

不均衡を作らないためには

 本来、経済政策の理想は、引き締めすぎと緩和しすぎの双方を戒めて、平衡操作(スムージング・オペレーション)に徹するスタンスを守ることである。緩和しすぎでバブルを作ってもいけないし、反対に引き締めすぎてバブルを崩壊させた場合でも、次のバブルの芽ができる。アクセルとブレーキを互い違いに強く踏んで、まるでジェットコースターに乗ったような政策運営が最も危険である。そうしないためには、金融市場や政治システムや金融・財政政策に過度な期待感を持たせて、景気を設計通り人為的に操作できるとは考えないことが大切である。

 

参考文献

熊野英夫『バブルは別の顔をしてやってくる』日経プレミアムシリーズ(2010