2010618

                                                           107347 野村 雄基 

株式投資の二大流派

 

投資がもたらすリターンはそれが普通株であれ、珍しいダイヤモンドであれ、将来何がこるかに依存している。そしてそこにこそ投資の醍醐味がある。言い換えれば、投資とは、成功するかどうかが将来を予測する能力によって決まる賭けである。伝統的に投資業界のプロたちは資産価値評価のよりどころとして、次の二つのいずれかのアプローチを用いてきた。1つは、「ファンダメンタル価値」理論であり、もう1つは「砂上の楼閣」理論である。面白いことは、この二つのアプローチは、あちらを立てればこちらが立たずの、相いれない関係にあると考えられることである。賢明な投資決定を行うためには、まずこの2つのアプローチを理解する必要がある。

 

ファンダメンタル価値学派

 ファンダメンタル価値学派は、投資対象が普通株であれ不動産であれ、「ファンダメンタル(本質)価値」と呼ばれる、絶対的な価値があり、それは現状分析と将来予測を注意深く行うことによって推定できる、と主張する。そして、資産の市場価格がこのファンダメンタル価値を下回れば購入し、上回れば売却するチャンスだと考える。なぜなら、この理論によれば、この一時的な割安・割高な状態はいずれ修正されるからである。

 

1年後の1ドルはいくらの価値があるのか

ファンダメンタル学派の第一人者としてあげられるジョン・バー・ウィリアムズは著作『投資価値の理論』の中で、株式の本質価値を計算するための公式を初めて示した。彼は価値のよりどころを配当収入に求め、投資の持つ複雑な側面を取り込むためにその公式の中に「割引(discounting)という優れた概念を導入した。割引とは基本的には将来の収入を、通常とは逆転の発想でとらえる考え方である。つまり1年後にお金がいくらになるかと考える代わりに、1年後に手にする金額の現在の価値を求めようという考え方である。ウィリアムズは株式の本質価値というのは、将来のすべての配当を割り引いた、現在価値の総額に等しいと主張した。そして投資家に対して将来受け取る金額の「割引現在価値」を求めるように勧めたのである。

 

配当の成長率の差に注目

 ファンダメンタル価値学派は現在の配当の水準と、その増加率が大きければ大きいほど株式の価値は高いと主張する。したがって、将来の配当の成長率の差こそ、株式評価の最も重要な要素と考えられる。そして、それと不可分の要素として、将来の利益予測という厄介な問題が入り込んでくる。つまりただ単に配当の長期的な成長率を予測するのみならず、どのくらいの期間、平均を上回る高成長が維持できるかも、推定しなくてはならないのである。

 

砂上の楼閣学派

 砂上の楼閣学派の投資アプローチは、心理的要素を重視する。著名な経済学者であり、投資家としても並はずれた成功を収めたケインズは、この理論の本質を明快な形で表現した。ケインズによれば、プロの投資家というのは本質価値を見出すためにではなく、一般投資家がどのように行動し、強気が支配する相場の局面で、希望的観測がどのように砂上の楼閣を作り上げるかを分析することに、エネルギーを費やす。つまり、優れた投資家とは、どのような市場の状況が大衆の砂上の楼閣づくりを引き起こすかを探り当て、一般投資家が気づく前に投資することで、ゲームに勝とうとするのである。ケインズは、株式市場を考えるよりどころとして、金融資産評価の視点ではなく、群集心理の原理を重視したのである。

 

ケインズの「美人投票」論

 ケインズは当時のイギリス市民なら誰でも理解できるたとえで、株式投資の本質を説明した。それが「新聞紙上美人コンテスト」である。これは、投票者が100枚の写真の中から最も容貌の美しい6枚を選び、その選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与えられるというものだった。これは、各投票者は、自身が最も美しいと思う写真を選ぶのではなく、他の投票者の好みに最もよく合うと思う写真を選択しなければならないことを意味し、何が平均的な意見になるのかを期待して予測することが大事となる。

 

この紙上美人コンテストのアナロジーは、株価系背に関する砂上の楼閣学派の考え方を端的に表している。買い手が支払ったよりも高い価値で、他の誰かにそれを売りつけることができる見通しが立てば、どんな投資でもそれなりに意味を持つ。言い換えれば、投資はいわば自己増殖的なプロセスと考えられる。そういう世界では、絶えずおめでたい人が新たにゲームに加わってくることを想定している。そして同じものを、あなたが払ったよりも高い値段で、だれかが買い取ってくれることになる。どんな値段がつけられても、その値段以上で買う人がいる限り、このゲームは続く。そこには何の理屈もなく、あるのはただの集団心理のみである。賢明な投資家がしなくてはならないのはただ一つ、ゲームの始めのほうで参加し、機先を制することである。

 

参考文献

バートン・マルキール

『ウォール街のランダムウォーカー 原著第9版』日本経済新聞出版社(2010