平成2066

「セールス・プロモーション戦略の影響」

小野寺 宏

 

値引きの効果

 内的参照価格は過去に観察してきた価格に基づいて形成されるので、当然のことであるが値引きなどのセールス・プロモーションの影響を受ける。販売価格は内的参照価格よりも低ければ割安に感じられるが、高ければ割高に感じられるので、消費者に割安感を生じさせるためには、内的参照価格はできるだけ高い水準であることが望ましい。

 セールス・プロモーションは消費者の購買意欲を高める手段であるが、同時に内的参照価格を下げてしまう危険性がある。短期的には売り上げが大きく増加し、効果が見られたとしても、長期的には逆効果となる可能性があるのだ。実際、値引きが終了した後のリピート購買の確立が、値引きが実施されなかった場合と比べて低くなる。したがって、セールス・プロモーションは慎重に行なう必要がある。

 

内的参照価格を低下させるプロモーション

 内的参照価格を低下させるプロモーションは、購入価格が変化する価格プロモーションである。その中でも値引きをすぐに受けられる値引きとクーポンが低下させやすい。値引きとクーポンを比べると、値引きでは値引き価格が表示されるが、クーポンでは値引き価格ではなく通常価格が表示されるので、値引き価格のほうが内的参照価格を低下させやすい。内的参照価格を下げずに購買意図を高めるという点では、おまけや増量などの非価格プロモーションのほうが優れている。価格プロモーションではキャッシュバックが優れていることになる。

 ただし、値引きも工夫次第では内的参照価格を低下させなくてすむ。たとえば、値引きに特別の理由をつける、めったに行なわれないような大きな値引きを一時的に限定して行なう、といったことは、消費者にそれらの値引きがその時だけの特別のイベントであると認識させるので、内的参照価格を変化させることはない。

 

 

<参考文献>

白井美由里(2006)『このブランドに、いくらまで払うのか』日本経済新聞社