平成21年11月20日
オタクの消費の分析(4)
106-106 奥出拓摩
重回帰分析とは、説明変数(x)と被説明変数(y)との関係を一次式にあてはめ、xの係数を推定する手法である。例えば、y(月支出額)=2×x₁(年齢)+3×x₂(買物回数)+1という式が算出されたとすると、年齢が1増加すると月支出額は2だけ増加するということになる。説明変数(x)の係数の絶対値が大きくなればなるほど、yに対して大きなインパクトを与える。係数がプラスであればyを増加させる効果を、係数がマイナスであればyを減少させる効果をもつ。
ここでは、被説明変数(y)として、月支出額と月支出額/小遣いの2つの指標を用いる。月支出額は、ユーザー各人が実際に支払った金額そのものを示しているが、この金額は年齢や可処分所得の影響を受けやすい。そこで、月支出額を小遣いで除した数値を用いることで、その影響を抑え、オタク消費を促進する他の要因を発見しやすくなる。
表は、重回帰分析の結果、すなわち、それぞれの説明変数(x)の係数を表している。説明変数(x)として20の変数を設定した。消費ジャンルとは、「最も消費しているジャンル」のことである。消費ジャンル(アニメ)は、アニメDVD等に最もお金をさいている人を示している。消費ジャンル数とは、その人が消費しているすべてのジャンルをカウントしたものである。アニメとコミックとフィギュアに支出している人は、消費ジャンル数は3となる。ネットショッピング利用とは、オタク関連商品をネットで購入している人を表している。このアンケートは店頭で実施されたため、実店舗での買い物経験者を対象としているが、全サンプル1,510人中733人(49%)の人がネットショッピングも併用していることがわかった。最後に、メイド喫茶は、その利用経験を表しており、456人(30%)のユーザーが利用経験ありと答えている。
表10の左欄は、すべての変数を計算に入れたモデルである。標準化係数の絶対値が大きく、かつ有意確率が0.05未満の変数(x)が、月支出額を増減させる効果を持つ。
真中の欄は、月支出額にインパクトを与える変数のみを抽出したモデルである。影響の強い変数から上げると、年齢、月買物回数、消費ジャンル数、買い回り店舗数、ネットショッピング利用が、月支出額を増加させるプラス効果を持つ。年齢が高く、複数のジャンルのオタク商品を購入し、買物回数や買い回り店舗数が多く活発に買物をしている人が、大きな支出をしていることになる。この結果は、特に驚くべきことではなく、自明なことを示していると思われる。また、消費ジャンルがコミックである場合や公式サイトを主な情報源としている場合では、支出額が若干低くなる傾向がみられている。
同様に、月支出額/小遣い額を被説明変数とするモデルを算出したのが、右欄である。これは、小遣いのうちどれだけオタク関連商品につぎ込んでいるかということを示すモデルである。まず、年齢が比較的強いマイナス効果(-0.247)を持っている。低年齢ユーザーほど、小遣いの金額の大半をつぎ込んでいることがうかがえる。プラスの効果を持つ変数を係数の大きい順に並べると、月買物回数、情報源(雑誌)、消費ジャンル数、消費ジャンル(アニメ)、買い回り店舗数、ネットショッピング利用となる。月支出額モデルとは異なるのは、情報源(雑誌)・消費ジャンル(アニメ)という具体的な要因が抽出されたことである。オタク関連の雑誌をよく読み、アニメDVD・関連商品を購入するユーザーは、可処分所得の多くをオタク消費につぎ込むコアなユーザーであるということになる。さまざまなオタクジャンルがあるなかで、アニメ商品が重要な位置を占めていると思われる。
表:オタク支出に関する重回帰分析 |
||||||
被説明変数(y) |
y=月支出額 |
y=月支出額 |
y=月支出額/小遣い |
|||
強制投入法 |
ステップワイズ法 |
ステップワイズ法 |
||||
N=1527 |
標準化係数 |
有意確率 |
標準化係数 |
有意確率 |
標準化係数 |
有意確率 |
(定数) |
0.354 |
0.039 |
0.000 |
|||
説明変数(x) |
||||||
年齢 |
0.234 |
0.000 |
0.231 |
0.000 |
-0.247 |
0.000 |
性別 |
-0.035 |
0.190 |
||||
月買物回数 |
0.208 |
0.000 |
0.214 |
0.000 |
0.168 |
0.000 |
買い回り店舗数 |
0.113 |
0.000 |
0.117 |
0.000 |
0.079 |
0.003 |
消費ジャンル数 |
0.119 |
0.000 |
0.127 |
0.000 |
0.112 |
0.000 |
消費ジャンル(アニメ) |
0.067 |
0.380 |
0.082 |
0.001 |
||
消費ジャンル(コミック) |
-0.043 |
0.441 |
-0.076 |
0.006 |
||
消費ジャンル(ゲーム) |
0.027 |
0.749 |
||||
消費ジャンル(フィギュア) |
-0.011 |
0.785 |
||||
ネットショッピング利用 |
0.097 |
0.001 |
0.110 |
0.000 |
0.077 |
0.003 |
創作活動経験 |
0.000 |
0.994 |
||||
情報源(テレビ) |
0.003 |
0.898 |
||||
情報源(ラジオ) |
-0.049 |
0.062 |
||||
情報源(雑誌) |
0.015 |
0.604 |
0.146 |
0.000 |
||
情報源(店舗) |
0.006 |
0.828 |
||||
情報源(口コミ) |
-0.027 |
0.318 |
||||
情報源(公式サイト) |
-0.051 |
0.069 |
-0.057 |
0.030 |
||
情報源(個人サイト・ブログ) |
0.031 |
0.278 |
||||
情報源(コミュニティサイト) |
0.022 |
0.440 |
||||
メイド喫茶 |
0.026 |
0.349 |
||||
Adjusted R_square |
0.159 |
0.160 |
0.183 |
参考文献
メディアクリエイト(2007)『2008 オタク産業白書』株式会社メディアクリエイト