平成21年11月13日
オタクの消費の分析(3)
106-106 奥出拓摩
クリエイター気質の測定
オタク商品ユーザーを分類するにあたり、もう一つ注目すべき変数が、クリエイター気質である。アニメやゲームといったコンテンツの購買者の中には、受動的にそれらを娯楽として楽しむタイプもいれば、コンテンツをもとに自らが創作活動を行うタイプもいる。アニメやゲームのストーリー・世界観・キャラクターなどをもとに、マンガや小説などの作品(同人誌・同人作品)をつくる、「二次創作」を行う人は少なくない。創作活動を行うユーザーは他のユーザーと比べて、属性や購買行動に違いが出るか検証していく。
まず、同人誌・同人作品を創作した経験についてきいたところ、約18%(273人)の人が経験ありと答えている。その創作分野は、マンガが29%(130人)と一番多く、小説・ゲームが続いている。もちろん、複数の分野で創作活動を行う人も多い。創作分野の回答は複数回答で答えてもらっているため、創作経験者273人の創作分野を合計するとのべ445人となる。
次に、創作経験の有無と即売会の参加経験および作品発表経験についてきいた。ここでの作品発表経験とは、即売会での発表とインターネット上での発表の双方を指したものである。即売会参加経験のあるユーザーは、有効サンプル1,510人のうち712人と、ほぼ半数(47%)にのぼっている。そして、創作経験のあるユーザー273人の大部分(243人・89%)が、即売会に参加している。つまり、即売会参加経験のあるユーザーの多くは、買い手として参加しているだけでなく、自らの作品を発表するために参加しているということがうかがえる。
では、創作経験のあるユーザーとないユーザーとでは違いがあるのだろうか。表3は、創作経験の有無によって2つのユーザー群に分け、各変数の平均値を算出したものである。右欄の有意確率とは、2つのユーザー群における平均の差が、統計的にみて有意であることを示している。この数値が0.05よりも小さい場合、差は誤差の範囲を超えており統計的に意味がある、すなわち、2つのユーザー群には何らかの違いが存在するということになる。
「月支出額・小遣い」以外のすべての変数において、統計的に有意な差異が確認される。したがって、創作経験の有無によって、ユーザー属性が異なることになる。創作活動のあるユーザーは、平均年齢が1.5歳高く、小遣いの金額が9,069円だけ高い。月あたりの支出額も6,137円高くなっている。また、買物回数と1回の買い物で見回る店舗数についても、創作活動をしているユーザーのほうが多いことがわかった。しかしながら、月支出額を小遣いで割った指数については、統計的に有意な差異は見られなかった。つまり、小遣いのうちどれだけオタク関連商品に費やすかという「オタク商品に入れ込む度合い」については、同人活動をする人とそうでない人とでは差異は見られないということになる。その結果、創作活動によって活発に見える購買行動は、オタク商品への心理的傾注を示しているというよりは、年齢層と可処分所得の高さに起因するところが大きいという説明が成り立つ。
一方、創作経験の有無による消費ジャンルの差では、創作経験のない人が多く消費しているジャンルは、アニメ・ゲームであることがわかる。反対に、創作経験のある人が多く消費しているのは、同人作品・コスチュームとなる。ただし、同人作品とコスチュームに消費しているサンプル人数が少ないため、統計的に意味のある差異であるとは言えない。一般店舗で販売されているアニメDVDやゲームソフトといった標準品を好む層と、自ら創作活動を行い、ほかのユーザーの同人作品を買うという層とに、少なくともユーザーを分けることができそうである。
当初は、創作活動をする人は、コアなオタクユーザーであり、特異な購買行動をみせるのではないかと想定していた。実際に、創作活動をしているユーザーは支出額や買物回数が多いという結果が得られた。しかしながら、創作活動ユーザーの心理や行動を説明するところまでは至っておらず、この点については今後の課題である。
表1:創作分野の度数分布 |
||
創作分野 |
のべ人数 |
% |
マンガ |
130 |
29% |
小説 |
77 |
17% |
アニメ |
56 |
13% |
ゲーム |
61 |
14% |
グッズ |
42 |
9% |
コスチューム |
29 |
6% |
その他 |
50 |
12% |
のべ人数 |
445 |
100% |
表2:創作経験と即売会参加経験 |
|||
|
創作経験あり |
創作経験なし |
合計 |
即売会参加経験なし |
30 |
768 |
798 |
即売会参加経験あり |
243 |
469 |
712 |
合計 |
273 |
1237 |
1510 |
|
|
|
|
表3:創作経験と作品発表経験 |
|||
|
創作経験あり |
創作経験なし |
合計 |
作品発表経験なし |
62 |
1237 |
1299 |
作品発表経験あり |
210 |
0 |
210 |
欠損値 |
1 |
- |
1 |
合計 |
273 |
1237 |
1510 |
表4:創作経験の有無による平均値の差の検定 |
||||
|
創作経験あり |
創作経験なし |
平均差 |
有意確率 |
(273人) |
(1,237人) |
|||
年齢 |
26.75歳 |
25.20歳 |
1.55歳 |
0.006 |
小遣い |
53,886円 |
44,707円 |
9,069円 |
0.004 |
月支出額 |
26,754円 |
20,617円 |
6,137円 |
0.000 |
月支出額/小遣い |
0.545 |
0.523 |
0.22 |
0.246 |
買い物回数(月) |
6.75回 |
5.72回 |
1.03回 |
0.007 |
買い回り店舗数 |
4.18軒 |
3.68軒 |
0.50軒 |
0.005 |
表5:創作経験と最も消費しているジャンル |
|||||||
|
最も消費しているジャンル |
|
|||||
アニメ |
コミック |
ゲーム |
フィギュア |
同人作品 |
コスチューム |
合計 |
|
創作経験なし 度数 |
258 |
326 |
212 |
237 |
270 |
0 |
1060 |
% |
24% |
31% |
20% |
22% |
3% |
0% |
100.0% |
創作経験あり 度数 |
44 |
75 |
31 |
62 |
16 |
5 |
233 |
% |
19% |
32% |
13% |
27% |
7% |
2% |
100.0% |
合計 度数 |
3.02 |
401 |
243 |
229 |
43 |
5 |
1293 |
% |
24% |
31% |
19% |
23% |
3% |
0% |
100.0% |
参考文献
メディアクリエイト(2007)『2008 オタク産業白書』株式会社メディアクリエイト