平成201128

コミック産業とオタクとの関係

 

国内ではコミックを中心とした同人誌活動がさかんであり、同人誌人口は80万人ともいわれている。同人誌活動は、コミック読者のファン活動であるだけでなく、新人漫画家の育成の場として、あるいはプロの漫画家が実験的な作品を発表する場としても利用されている。

この構造における特徴は、同人誌活動が業界から半ば公認されている点にある。同人誌の多くは原作品のパロディーであり、著作権および著作隣接権を侵害するものが少なくない。それゆえ、かつて同人誌活動は、いわばアンダーグラウンドの活動であった。しかし、この実験場としての機能については、コンテンツ産業を形成する上でなくてはならないと業界内で認められつつあり、同人誌活動が黙認されているのが現状である。

一方、近年では、活動の規模が大きくなるにつれ、同人誌執筆者による内容の自主規制や、原作品編集部に対する作品の利用確認の徹底などを通じ、同人誌活動を合法的なものへと導こうとする動きがみられるようになった。また、原作品編集部でも同人サークルに利用許諾を与えるケースが多くなったり、同人誌での利用を積極的に認めると表明する作者も現れたりするなど、業界側もこの動きに同調している。また当日版権システム1の創設など、業界側と同人側の双方で派生コンテンツの創作活動の枠組みを決めていく試みも続いている。

しかし、コンテンツ産業の全体の流れとして、著作権の保護期間の度重なる延長や、著作隣接権の適用範囲の拡張など、コンテンツ流通における供給者側のコントロール範囲を拡大する動きが近年目立つようになった。また、デジタルコンテンツ流通の浸透を契機に、デジタル技術を用いてコントロールを強める傾向もみられる。これらの動きは、商業的には自然な流れではあるが、一方で、コントロールの力を強めすぎることにより創造活動を阻害し、ひいてはコンテンツ産業の沈滞を招く危険性があると懸念する声も上がっている。

 

 

 

参考文献

野村総合研究所オタク市場予測チーム(2005)『オタク市場の研究』東洋経済新報社

 

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1 ガレージキット展示即売会において、イベント内に限り、ガレージキットの展示・販売の許諾を行うシステム。1980年代後半に導入された。アマチュア活動を対象としているため許諾手続きが簡略化されている。