平成20年10月24日
コミックオタク(2)
同人活動の広がりとオタク派閥の形成
コミックオタクの活動は、コミックという分野を超えて広がりを見せている。1つの作品をコミック、アニメ、ゲームなどで露出させる多メディア展開が当たり前となっている中、コミック作品が原作となり、アニメ、ゲームへと展開するケースが多いことから、コミックオタクは、コミックだけでなく、アニメ、ゲームなどの他の分野にも精通することがある。収集系はその典型である。同人誌系、フィギュア系、コスプレ系も当初はこれと同様に、作品やキャラクターへのこだわりを源に、表現活動の幅を広げた結果誕生した派閥であった。
しかし、作品へのこだわりや愛の表現ではなく、自己表現の手段としての表現活動も目立つようになり、同人誌系、コスプレ系などのオタクは、「コミック」、「アニメ」などの作品ごとの分野とは独立した派閥を形成しつつある。「原作は知らないけど、かわいいからコスプレをする」という層がこれにあたる。
さらに、その過程で、これまでこだわりの対象であった特定の作品、世界設定、キャラクターに代わるこだわりの対象として、作品やキャラクターから抽象的な要素が遊離した。抽象的要素の例としては、「猫耳」、「メイド」、「妹」などがあげられる。たとえば、「メイド」を職業としていたある特定のキャラクターに人気が集まり、このキャラクターやその登場作品を対象に派生的な創作活動が行われていたが、同じようなキャラクターが乱発されるようになり、次第に単に「メイドである」、「メイドの格好をしている」という要素に対して条件反射的にこだわりや愛を持つようになる現象がしばしば見られるようになる。たとえば、メイドという条件付けでのみで、彼女の性格や服装や主従関係などのシチュエーションに想像をめぐらし、反射的に「萌える」状態に陥ってしまうのである。
この遊離現象が発生したのは、こだわりに基づく表現活動が自由かつ細分化されて行われる同人活動が主であった。これら「猫耳」、「メイド」、「妹」など、萌えることができる抽象的要素が濃縮される形でコミックやゲームなどに逆流入し、特有のコンテンツジャンルを形成するようになった。そしてこれらのこだわりを対象とする層が、「萌え」、「秋葉原」というキーワードでイメージされるオタク像の原型となった。
しかし、作品性に必ずしも強いこだわりを持たないこの層は、「作品中心主義系」、「収集系」のコミックオタクとはこだわりの対象が異なることから、同じコミックオタクとして括りつつも大きな断絶がある。
参考文献
野村総合研究所オタク市場予測チーム(2005)『オタク市場の研究』東洋経済新報社