平成201017

コミックオタク

106-106 奥出拓摩

 

コミックオタクの特徴

日本国民に広く親しまれている漫画はファンの裾野が広く、その分、オタクの勢力も大きい。また、コミックオタクはオタク12カテゴリーのうちで最も人口が多い。

典型的なコミックオタクとしては、支出や時間の大半をコミック関連のために捧げる人といった見方がある。一方、作品への「愛」、つまりコミックの内容が自分の価値観に占める影響が強いといった心理的側面を重視する見方もある。これら両者を区別することなく、どちらもともにコミックオタクであるということとする。

近年、コミックオタクの存在は社会的に認知されるようになってきたが、その一方で、流行に乗って次から次へと生産される作品は、コミックオタクが「愛」を込めるほどのクオリティを持たず、ただ一過性の娯楽として消費される傾向を強めた。その結果、作品を愛し、作者と価値観を共有する心理性コミックオタクは減少していくという構造が生まれつつある。

一方、可処分時間の多くをコミック関連に費やすコミックオタクは多い。彼らは、単一の作品、特定の作者、特定のジャンルに強く入れ込んでいるというわけではなく、コミックというジャンルを総じて好む。同時に何本もの作品を読みこなし、特定の作品にはそれほど強くこだわらない。

 

コミックオタクの分類

・作品中心主義系

コミック作品こそがすべてであり、作品以外の関連グッズにはあまり興味を示さないタイプのオタクである。何ページの何コマ目にはどんなセリフがあったのかを暗唱するほどに読み込み、繰り返しその世界を追体験する。その作品の世界観や登場人物、思想などへの思い入れが強いことが特徴であり、作品を愛し、作者と価値観を共有することに価値を見出す。しばしば、登場人物と自分とが空想の中で会話を展開したり(脳内会話と呼ばれる)、続編やサイドストーリーを勝手に空想したりと思い入れが膨らみ、オリジナルの作品の範囲を超えてしまいがちである。一方、実際の消費行動は作品購入のみであり、外見的な行動は作品を読むことのみであるため、そのこだわりの激しさは目立たない。

 

・収集系

自らが興味を持つ作品の関連グッズなどをすべて収集しつくすことに執心するタイプである。収集の対象は、初版単行本、掲載雑誌、書き下ろしピンナップやテレカやカレンダーといった作者の手によるものから、作品登場人物のフィギュアやガレージキット、同人誌といった関連商品にいたるまで幅広い。自分が愛する作品が持つ世界観を重要視しており、その世界に関わるものをより多く集めることが、作品世界をより深く知り、作品への愛を深めることにつながるという価値観を持っている。このことが収集系の極端な消費行動につながっている。

 

・同人誌系

作品への愛、世界観の追体験を能動的に生み出す古典的パターンが、作品に関連する同人誌の作成である。同じ作品や作家を愛するメンバーが集まり、同人誌を作成して頒布する。

私的にアニメやコミックやゲームなどの作品を制作し頒布するいわゆる同人活動は、すでに広く定着している。同人誌即売会はさまざまなジャンルで数多く開催され、いまや週末ごとに全国どこかで行われているほどである。国内で最大の同人誌即売会である「コミックマーケット」は、参加サークル数は35000、入場者数は3日間で延べ50万人という巨大イベントに成長した。また、参加人口の拡大に伴い、同人誌に特化した小規模印刷会社や画材販売会社といった周辺産業も生まれている。

現在では、店頭所内・委託販売をする書店も増え、流通経路も確立されてきた。また有名同人サークルには多数のファンが存在しており、原作品の人気の底上げにも重要な役割を担っている。一方、営利追求を強く意識したり、それを念頭に置いた性的描写が多く含まれる作品も増加傾向にあり、2次作品としての愛を感じられないと嘆くオタクも少なくない。

 

・フィギュア系

登場するキャラクターのフィギュアやガレージキットを作成するオタクである。こうした作品を一堂に集めた「ワンダーフェスティバル」のようなイベントも少なくない。ただ、この分野でのプロとアマの棲み分けがやや緩やかであり、海洋堂のような法人とアマチュアの作品が同一のイベントで展示されている。2次元の作品を3次元で再現し、自らがリアリティを付与する点に最大の特徴がある。生半可な技術で作成できるモノではないため、今なおディープな層のみが進出できる世界である。

 

・コスプレ系

コミック作品に登場するキャラクターの衣装・容姿をまねてそのキャラクターになりきるコスチューム・プレイ(コスプレ)を行うオタクであり、コスプレイヤーと呼ばれる。コスチューム・プレイ自体は、コミックのキャラクターに限らず、さまざまな衣装を身にまとい特定のキャラクターになりきる行為全般をさす言葉だが、「コスプレ」という略語は、コミックやアニメの同人活動の1つとしての行為をさす言葉として認知されつつあるといえよう。近年では、海外でもCosplayという言葉として認知されつつある。

同人活動の1つとしてのコスプレは、かつては原作に敬意を表した上で、身をもって作られた忠実な2次作品という位置づけであり、実践者はかなりオタク度が高く少数派であった。

しかし、近年、キャラクターへの愛情や経緯の意識が薄く、「衣装が綺麗だから」「決めポーズがかっこいいから」という理由だけで、原作を知ることなくコスプレに入れ込む層も多い。作品への愛よりは、見られる、撮られることの快感がその活力になっているといえよう。コスプレ人口は増加し、同時に若年化も進んでいる。さらにメイド喫茶などの登場により、コスプレの存在が世間でも目立つようになった。

こうした流れを創出したのは、カメコ(カメラ小僧)と呼ばれる撮影者の参入とインターネットという新たな自己表現の場の登場によってであった。また、専門写真スタジオやコスプレ衣装作成会社の登場が加速役になった。そして、その結果としてコスプレイヤーのアイドル化が進展している。

 

・自主制作系

広い意味では同人誌系オタクに含まれるが、派生作品ではなく自分のオリジナル作品としてマンガを作成するタイプである。中にはプロの漫画家が商業ベースと切り離した趣味の作品を別名義で発表する場合もあるが、多くはプロ以外のコミックオタクがサークルを組んで同人誌を発行している。CLAMPのように、こうしたオリジナル同人サークルから有名プロが誕生する場合もある。

 

 

 

参考文献

野村総合研究所オタク市場予測チーム(2005)『オタク市場の研究』東洋経済新報社