平成201128

         ファブレスメーカーとしての任天堂

                               105-370 中川 正隆

1.高い利益率をほこる任天堂

 任天堂の20083月期の売上は16724億円だった。そのうち、売上高営業利益率が29%、売上高経常利益率が26.4%に達した(スクウェア・エニックスは営業利益が14.6%、経常利益が12.8%。バンダイナムコゲームスは営業利益が11.7%、経常利益が11.6%)。また、「Nintendo64」や「ゲームキューブ」などで悪戦苦闘していた時期でも営業利益は20%をこえていた。

 なぜここまで高い利益率を維持できたかというと、任天堂がファブレスメーカーだからだ。ファブレスメーカーとは工場を持たないメーカーという意味だ。生産ラインなど設備投資費がかからず、在庫負担も必要なく、物流経費もかからない。メーカーに必要なあらゆる投資が不要のため、企業として利益がだしやすい。

 

2.徹底したアウトソーシング

 「Wii」は任天堂の部品は使われておらず、全て他社の部品で作られている。本体の中枢部品のCPUIBM、サブLSIはメガチップス、画象処理用LSINECエレクトロニクス、電圧変換回路制御ICは三洋電機、フラッシュメモリーはサムスン電機というように世界中の一流メーカーの部品を集めて作られている。また、「Wii」のコントローラーでは3軸加速度センサーという基幹部分を採用しているが、これはアナログデバイセズという米国の半導体メーカーのものである。アナログデバイセズは高性能アナログICでは世界シェアトップを誇る企業だ。このようにそうそうたる部品メーカーの最先端部品を調達して「Wii」は完成したが、任天堂は組み立てをおこなっていない。

 日本のメーカーは大なり小なりアウトソーシングをおこなっているが、組み立ては自前の工場でおこない、根本の技術は自前でもつ。任天堂では無線LANモジュールを供給しているミツミ電機が本体の組み立てを請け負っている。大阪の部品メーカーのホシデンも「Wii」の機構部品の一部を供給すると同時に組み立てを受給している。部品メーカーの工場で組み立てまで担当することで流通コストが削減される。また、任天堂は海外では中国深センの新生精工工場など3つの協力工場で「Wii」の組み立てをフル操業で行っている。任天堂はこうした協力工場をいくつも抱え、需要に応じて生産を委託している。臨機応変に生産体制を取ることができ、任天堂は固定したコストをかける必要がないため、高い利益率を上げることができる。

 

3ファブレスメーカーになるための条件

 ファブレスメーカーのメリットは大きいが、なるためにか以下の条件が必要になる。

@     ローテクであること

A     価格支配力が強いこと

B     数量がまとまること

C     本体が優れた企画開発力を持つこと

任天堂のゲーム機はハイテクではないため@の条件を満たすことができる。Aは任天堂のゲーム機は市場から値下げ圧力がないことから、Bは国内外で2445万台売り上げた「Wii」、7060万台売り上げた「ニンテンドーDS」の数量から満たすことができる。Cも任天堂が企画開発に特化していることから満たすことができ、任天堂はファブレスメーカーに必要な条件をすべて満たしている。

 

4.ファブレスメーカーのデメリット

 ファブレスメーカーのデメリットとして、生産の工程でトラブルが起こっても、公には外部メーカーの責任にできないことがあげられる。たとえば、20063月発売の「ニンテンドーDS Lite」は当初クリスタルホワイト、アイスブルー、エナメルメイビーの3色が同時発売される予定だったが、実際に発売されたのはクリスタルホワイトだけで、他の2色は約2週間後に発売されることになった。これは製造上の不具合で色ムラが生じたためとされている。任天堂はこうしたことがしばしば起こり、「スーパーファミコン」の時も製造ラインの不具合で供給量が間に合わず、発売延期となったとされ、他の製品でもしばしば品切れが起こっているのも、メーカーが製品の品質を保てなかったという説もある。また、生産を増やすときも、新たな協力メーカーを探して、契約を結び、1からラインを構築しなければならないため、増産への対応は遅れてしまう。

 

 

参考文献

溝上幸伸(2008)『任天堂Wiiのすごい発想』ぱる出版

参考URL

GAME Watch   http://game.watch.impress.co.jp/index.htm

株式会社バンダイナムコゲームス【ブンナビ!2010(文化放送就職ナビ)】>財務情報

http://bunnabi.jp/2010/cn_data.php?ccd2=59918