あなたが抗うつ薬をもらったら?

〜抗うつ薬の変遷〜A

 

☆セロトニンの「流行」

 ・・・生化学的研究が進められ、向精神薬が、中枢神経系の情報伝達をさまざまな程度に刺激したり、抑制したりすることが明らかになった。脳の神経細胞の間を移動してさまざまな情報を伝える「神経伝達物質」は数多く発見されたが、中でもセロトニンは盛んに取り上げられ、研究され、多くの論文が書かれた。一方、『精神薬理学:第四世代の進歩』 (1995)の中の論文「セロトニンと行動:一般的仮説」では、「セロトニンは、もしかしたらすべてに関わっているかもしれないが、何の原因でもないかもしれない」と指摘している。しかし、セロトニンは大衆の間でも「流行」した。(→「セロトニンを増やす食べ物」「セロトニンを補給するサプリメント」などがあるらしい。)

 ※『精神薬理学:第四世代の進歩』・・・精神薬理学の権威ばかりを集めて編集された専門書(1995)

 

◎SSRI−「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」

 ・・・SSRIとは、神経受容体へのセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する薬によって、神経細胞の間を移動して情報を伝達するセロトニンを増やそうとするメカニズムを持つ抗うつ薬のことである。SSRIの代名詞とも言える薬が「プロザック」である。

  SSRIは、三環系抗うつ薬よりも副作用が少なく、すべてのうつに対して「非特異的に」作用するため、使用はどんどん拡大している。さらに、うつだけでなく、強迫障害、パニック障害、社会不安障害などにまで、適応を拡大している。また、「賦活作用」への期待から、患者だけでなく、ちょっと困っている一般の (それほど差し迫った状況ではない) 人々にも処方されるようになってきている。実際に過剰とも言える処方がなされていることは事実である。しかし、さまざまな重圧や悩みを、薬の助けを借りてでも自らを「賦活」し、できるだけ苦労せずに困難を乗り越えようとする人々がいるのは当然だろう。そして、他人の苦悩のレベルを正確に把握できなくとも、要求にできるだけ応えようとするのが、現代の精神医学である。

 『→そのような要求に応えることがはたして妥当か?

  →抗うつ薬が、根底に潜む問題の「ぼろ隠し」になっているのではないか?

  →抗うつ薬への「依存」を作り出しているだけでは?』

 

 

参考文献

『薬でうつは治るのか?』 片田珠美 (洋泉社 2006.09.21 初版)