平成21年11月27日
未成年者の移籍に制裁(2)
104‐417 樋川 朋也
制裁に至るまでの経緯
ガエル・カクタは8歳の時にランスの下部組織に入団した。そして、13歳になると、ANSと呼ばれる同意書にサインする(契約期間は5年)。これは、他のクラブから獲得の打診があっても応じないという同意書であり、育成段階にある若手はクラブとの間でこうした契約を交わすことが、フランスでは慣例化している。
なぜこのような措置が採られているかといえば、まだ人間的に未熟な若い選手が落ち着いた環境でフットボールに打ち込み、学業にも励めるようにとの配慮からだ。フランスでは同様の観点から、選手が成人(18歳)するまではプロ契約を交わさないという不文律が存在する。ただし、クラブに実力を認められたものは16歳の誕生日を迎えると、小額ながらも一定の報酬が得られる、プロ研修生契約を結ぶことができる。
ところが、こうしたシステムや契約はフランス独自のものであり、他国では認知されていない。ここに大きな問題がある。育成されたクラブとプロ契約を結ぶ前に、国外のクラブに移籍できるという抜け道が存在する。その場合、獲得する側は9万ユーロ(約1260万円)の基本違約金と、育成されたクラブで過ごした年数分の追加違約金(1年につき1万ユーロ=約140万円)さえ支払えばいいという取り決めになっている。
カクタのケースの場合、FIFAが定めるこの取り決めだけではなく、さらに状況が込み入っている。カクタは16歳の時に一方的にANSを破棄。勝手にロンドンへ行き、違約金なしにチェルシーと契約を結んだ。
さらにこれに、家族の問題が絡んでくる。ランスはカクタが退団する際に、チェルシーが彼の家族や取り巻きに200万ユーロ(約2億8000万円)の金をばら撒いたと主張している。
同様の訴えは、2009年夏に16歳のポール・ポグバをマンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれたル・アーブルからも上がっている。マンチェスター・ユナイテッドがポグバの両親に20万ユーロ(約2800万円)を渡し、息子を説得するよう言いくるめたと主張する。
ポグバは現在、月に700万ユーロ(約9万8000円)の給料を受け取っている。しかしこの額が1年後には、2万ユーロ(約280万円)近くにまで膨れ上がるという。これは、ポグバが18歳になり、ル・アーブルがプロ契約の時の給料として約束していた額の約5倍だ。これだけの金をちらつかされれば、本人も親も冷静な判断ができなくなって当然だ。
参考書籍
(2009) 『ワールドサッカーダイジェスト11月5日号』 日本スポーツ企画出版社