平成2199

中田英寿(16

104417 樋川 朋也

1. ペルージャ移籍速報

199876日、午前6時。日本時間で午後1時。次原のもとへ共同通信の記者から電話がかかってきた。内容は、中田の移籍についての問い合わせだった。イタリアの新聞に、中田のペルージャ移籍ほぼ決定という記事があるが、その真偽を確かめたいというものだった。次原は、何も決まってはいない。そんな事実はない。と言い電話を切った。

しばらくして、今度は長年中田の取材を続けているスポーツ担当の記者からの電話が入った。共同通信から配信されたニュースに『中田、ペルージャ移籍が濃厚イタリア紙も報道』とあったのだ。その記事には『金銭面の問題も解決』『地元紙が報じている』『ペルージャは、日本のスポンサーのおかげで、無料で中田を獲得できる』などとあった。

次原はすぐにアレッサンドロを呼び、事実関係を問いただした。そして、単に日本企業の金が目的ならば、二度と会うことは無いと伝えた。

アレッサンドロは即座にその新聞を取り寄せるようにスタッフに指示を出し、次原とゴードンに釈明した。事態の経緯を彼なりに推察したものを説明し、また、この情報を提供したのは自分たちではないこと。それから正確な現状を自分からの声明文としてメディアに伝えることと、ACペルージャの名誉をも汚すものだと厳重な抗議をすることを伝えた。

次原も共同通信に抗議をした。捏造記事を信じ、確認の取材もせずに、そのまま翻訳しただけで配信されたことで、中田というサッカー選手が実力で掴んだ移籍交渉の機会を踏みにじられてしまうかもしれなかったからだ。しかし、共同通信は、イタリアの新聞の報道を伝えたまでだと言うだけだった。

また次原に電話がきた。これから訪問するはずのボローニャのスタッフからだった。新聞記事を読み、事実確認を行い、次原から詳細を聞くと、今ここでペルージャの誘いを完全に断ってくれるなら、ボローニャは、即刻ベルマーレ平塚に中田選手への正式なオファーを申請する。我々のクラブにだけ中田選手への交渉権を与えてくれないか。と言ってきた。

中田とゴードンを呼び、ボローニャからの申し出の詳細を伝え、中田の考えを聞いた。中田は、今の騒ぎは別として、サッカーに関して選手としての中田を認めてくれているペルージャをここで切ることはできないと言った。中田の意志を聞いたボローニャのスタッフは即座に中田の獲得交渉を打ち切った。

 

 

 

 

参考書籍

小松成美 (1999) 『中田英寿 鼓動』 幻冬舎