平成21515

中田英寿(5)

104-417 樋川 朋也

2. フランス・ワールドカップ・クロアチア戦の最中に‐次原サイド

次原は、携帯電話に舞い込むエージェントたちの話をゴードンに伝えた。二人は、得体の知れない男たちについても、詳しく情報を交換し合うことを約束した。

中田以外にもスポーツ選手の代理人を務め、その交渉に当たってきた次原は、世界のサッカービジネスの闇を覗き見た思いがして、暗澹たる気持ちになっていた。人々の感動を呼ぶワールドカップは、一攫千金を狙う者の大きな商売のマーケットだった。

次原の胸の中で、中田のために数多くのエージェントと接触し、少しでも条件の良い移籍を実現したいという気持ちと、巨大なビジネスとそこに巣くうエージェントたちから中田を守らなければという思いが揺れていた。

次原は、フィールドにいる中田には、微かな不安も与えたくないと強く思っていた。

 

3. フランス・ワールドカップ・クロアチア戦の最中に‐ゴードンサイド

一方、ロンドンのオフィスでテレビ観戦を続けるゴードンの元には、引き継づきクラブ側のエージェントたちから連絡が入っていた。ワールドカップが開催されて十日、彼らはマーケットに出揃った選手たちの品定めをすでに終えようとしていた。中田に目をつけたエージェントたちは、より具体的な条件を提示しはじめていた。

その中には、ゴードンが嫌悪感を抱く金にしか興味の無いエージェントもいた。ゴードンにとってみれば、それは予測していた状況だった。四年に一度の書き入れ時であるこの時期、中田につけられた高い査定を考えれば、サッカーより金儲けに心血を注ぐ輩が躍り出てもまったく不思議ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考書籍

小松成美 (1999) 『中田英寿 鼓動』 幻冬舎