自己株式処分差益の利益性について
104-186 古賀信吾
1、自己株式の概要
自己株式とは、会社が発行した自らの株式のうち、その会社自身で保有している株のことをいう。自己株式のことをアメリカでは「Treasury stock」と呼ぶことから、我が国においては、金庫株と称される。
従来、我が国では、自己株式の取得は、原則として禁止されてきた。しかし、平成6年の商法改正により、従来の取得禁止という原則を維持しつつも、従業員持株制度[1]のための自己株式の取得については認められた。ただし、あくまでも例外的な措置とされ、数量・財源・取得方法等について、制限が課されている。例えば、取得できる株式総数は発行済株式数の3%以内で、株主総会の決議が必要であり、毎月一定の日に市場から機械的に買い付けなければならない。
株式消却に関する規制も緩和された。株式消却は、従来は減資手続きによるか、配当可能利益の範囲で自己株式の取得を行えることを予め会社の定款に規定する必要があったが、この改正により株主総会の決議を経て行うことができるようになった。翌年の平成7年に、みなし配当課税の凍結措置がとられ、株式需給の調整や株主への利益還元の手段として、自己株式の取得が利用されるようになった。
平成9年の商法改正では、ストック・オプション制度[2]が導入され、取締役及び従業員に譲渡することを目的とした自己株式の取得が認められると同時に、株式消却に関する規制もさらに緩和された。
主な変更点として、取締役会の決議だけで自己株式の消却が可能になったこと、取得できる株式数が発行済株式数の10%までに引き上げられたこと、市場からの買い付けに加えて、公開買い付けができるようになったことが挙げられる。これらの変更により、上場会社は、機動的に自己株式の取得を行うことができるようになった。
また、平成13年6月の商法改正では、自己株式を資産計上できないことや、自己株式を処分する場合には、新株発行規制に準拠することなどの濫用防止策をとったうえで、自己株式の取得及び保有が、原則自由化された。すなわち、この平成13年度の改正により、それまで原則禁止で例外的に取得が認められていた自己株式が、原則自由へと大きく転換された。
さらに、平成15年に成立した会社法[3]では、自己株式の取得手続きについて見直しが行われ、株主総会の決議による取得規定の緩和、市場取引、公開買い付け以外の方法による取得手続きも整備された。
2、取得禁止の理由
我が国においては、以下の理由などにより、自己株式の取得が原則として禁止されてきた。
(1)資本維持の原則の観点
資本維持の原則とは、資本が会社財産を確保するための基準額である以上、資本は、名目上の金額を示すだけではなく、その資本額に相当する財産を会社は常に保有しなければならないとするものである。資本維持とは、資本に相当する財産が充実された後も常に維持されなければならないとするものであり、この要請から、利益配当の制限(会社法第290条)などが定められている。
自己株式を取得することは、株式金額を払い戻すことになるため、資本維持の原則に反し、会社財産の確保の大きな障害となり、許されない。
(2)相場操縦・インサイダー取引防止の観点
上場企業の場合、株式が証券取引所に公開されていることなどによって、株価が形成されているが、会社の経営上、自社の株価がいくらなのかは、会社経営にとっては大きな問題である。そこで、会社の業績が下がったり、マイナス材料が発生したりして、株価が下がる恐れがあるときなどに、自己株式を取得することによって、株価を引き上げたり、下がるのを食い止めたりすることができる。しかし、これは本来、公正でなければならない株価を人為的に操作することになるため、不公正な取引方法として禁止されている。(金融商品取引法第159条)
また、会社の取締役や大株主が、会社に関する未公開の重要な情報を知った場合、これが公開される前に、自己株式の売買をして利益を得ることもできるが、これはインサイダー取引として禁止されている。(金融商品取引法第166条)
(3)株主平等の原則の観点
株主は、株主たる資格に基づいて会社に対して有する権利義務については、株主の所有する株式数に応じて平等に待遇されなければならない、これを株主平等の原則という。商法においては、名文化されていない原則とされてきたが、会社法においては、第109条1項において、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と規定している。
自己株式を取得する場合、取得する相手方や、株価の決め方いかんで、株主間に不公平が生じる。すなわち、一部の株主から会社が恣意的に株を高く買い受けることなどは、株主平等の原則を害するおそれがある。
(4)経営者の地位保全の観点
会社の経営者が、会社の資金で自己株式を取得し、議決権の数を減らすことによって、自己の地位の保全を図る恐れがある。
3、改正・緩和の経緯
我が国は、自己株式の取得について、長い間原則禁止の立場をとってきた。これは、日本の法律が自己株式の取得を認めていないドイツやフランス等のヨーロッパ系の法律に基づいて作られているという背景を持つからである。そのため、第二次大戦後の昭和25年に公布された商法では、自己株式取得規制が定められた。内容としては、自己株式の取得を原則として禁止した上で、例外として以下の場合に限り、取得が認められた。
(1)資本減少、利益消却、償還株式について株を消却する場合
(2)合併又は他の会社から営業の全部を譲り受ける場合
(3)会社の権利を実行するために債務者の持っているその会社の株式を取得することが必要な場合
(4)株主の買取請求権に基づいて、会社に買取請求がされた場合
(5)証券会社等問屋が委託を実行するため一時的に取得する場合
(6)信託会社が自己株式を信託された場合
長い間、こうした規制の中で、企業は、経営活動を行ってきた。だが、バブルの崩壊後、日本企業を取り巻く外部環境の変化が、規制を見直す要因になった。
バブル経済の崩壊後におけるグローバル経済の中で、外国との自由競争に適切に対応していくために、日本企業は、多くの問題に直面した。その中でも、長期にわたる証券市場の低迷からの脱却は急務であった。それまで、日本経済は間接金融を中心に運用されてきたが、世界経済の流れの中で、これを早期に直接金融へ移行することが求められた。直接金融によって、投資家から企業に直接多くの資金が円滑に流入することによる、企業や市場の活性化は、日本経済の建て直しの前提となるからである。そのために、企業間で従来行われてきた株式の持合の解消などが必要になった。このような考えから、それまで厳しい規制の下におかれてきた自己株式の取得を根本的に考え直すことが、そのための有効な手段の一つであると考えられた。
自己株式取得を早期に見直すべきだとする考えから、日本経済団体連合会は、平成12年12月25日に「金庫株に関する論点整理」として、金庫株について指摘されている問題、自己株式取得禁止の例外、金庫株解禁のニーズとメリットを公表した。
一方、当時与党であった自由民主党、公明党、保守党の三党においても、まず広く証券市場を中心とした経済活性化を図るために、平成13年1月22日に与党証券市場等活性化対策プロジェクトチームを発足させ、その一環として、自己株式の規制を解禁する方向で検討し、その結果を、同年2月9日に「証券市場等活性化対策中間報告」及び「金庫株解禁に係わる不公正取引の防止措置」をまとめ発表した。さらに、当面する厳しい経済状況を脱するため、上記与党三党は、同年3月9日、「緊急経済対策」を発表した。その中にも、証券市場等の活性化対策として、前述の中間報告に盛り込まれた自己株式の解禁とそれに伴う環境整備を挙げて、その促進を急務とした。これを受け、「商法等の一部を改正する等の法律案」が同年5月18日に衆議院に、提出された。法律案は、衆議院及び参議院において審議が行われた。資本充実、株主保護、不公正取引のチェックに問題があるなどの反対する意見もあったが、与党多数の賛成により、6月14日に衆議院を、同月22日に参議院を通過した改正案は、平成13年10月1日から施行されることとなった。
目的を定めない自己株式の取得を認めるこの改正法により、合併、株式交換、会社分割等組織を変更するときの代用株式として自己株式を利用でき、取締役会で決議すれば、自己株式の消却、他への譲渡等という幅広い利用が出来るようになった。
4、諸外国における自己株式の取り扱い
(1)アメリカ
アメリカでは、自己株式取得について制限を設けていない。自己株式取得につきアメリカでの会社法も模範会社法があるもののその採択は自由であり、多くの州では州法により独自に規定している。したがって、その内容もまちまちで、自己株式を取得した場合、これを未発行株式とする州もある。他にも、ニューヨーク州やデラウエア州は、保有は自由であるが、保有株を処分する場合には、原則として取締役会の決議によって、新株発行手続に準ずる方法によって行うことや、自己株式の取得相当額を資本項目から控除するといった、資本取引として処理する方法など、一定の制限を課す州もある。
また、自己株式取得について、相場操縦、インサイダー取引が行われる可能性があるため、連邦法である証券取引法は、これを規制している。特に自己株式による相場操縦については、証券取引委員会がルールを定め、取引を規制するのではなく、逆にこのルールに従って自己株式を行えば、相場操縦にはならないという一応の基準を定めている。ただし、このルールはあくまでも会社及びこれに取次ぐブローカー、ディーラーが自己株式を買い付ける際に、相場操縦が行われないための指針であって義務ではないし、ルール以外の方法による買い付けをしてはならないという意味でもない。
そもそも我が国が、自己株式の取得を解禁したのは、アメリカのような規制のない国の企業と対等に競争するためでもある。
(2)イギリス
イギリスは、アメリカとは異なり、自己株式の問題点を防止する為に原則禁止の立場を取っている。ただし、取得が禁止されているのではなく、保有が許されていない。例えば、定款の規定に基づき株主総会の承認を得た取得、無償による取得、資本減少のための取得、償還株式の償還のための取得には、取得した株式は、株式としての効力を失い、授権発行株式として取り扱われる。(会社法第143条1項、第160条4項、5項、第162条2項)
(3)ドイツ
ドイツにおいては、株式法第71条1項により、自己株式の取得を原則的に禁止し、例外的に取得できる場合を次のように定めている。
①自己株式を取得しないと会社に直接大きな損害が生じる場合
②従業員持株制度によって会社又はその関連会社の使用人等へ譲渡する場合
③子会社等関連会社の株主に補償する場合
④無償で取得する場合
⑤証券業務において委託売買執行に伴って取得する場合
⑥合併等によって合併によって包括承継する場合
⑦株主総会で資本減少を決議した場合
⑧金融機関又は証券会社が、株主総会の決議で一定株式数を証券取引の目的で取得する場
合
⑨一定の取得価格、取得株式数、取得期間(株主総会の決議から18ヶ月以内)に基づく取
得
なお、①、②、③、⑧、⑨による取得は、配当可能利益の範囲内で、その数も、会社が既に保有している数と合計して、資本の10%を超えることはできない。
(4)フランス
フランスの商事法典は、次の場合以外の取得を禁じている。なお、下記の場合、自己株式の取得や処分の方法に制限はない。ただし、取得数は資本の10%以内という制限が設けられ、また取得から2年以内に消却するか処分しなければならない。
①資本の減少を行うための一定の自己株式の取得(第206条)
②従業員持株制度、ストック・オプションのための取得(第207条)
5、自己株式の取得手続
(1)概要
平成13年商法改正後に、自己株式取得は原則自由となった。しかし、有償での取得は定時株主総会での決議が必要であり、手続が限定的になっていた。そこで会社法では、定時株主総会だけでなく臨時株主総会でも有償取得決議が可能とした。これにより自己株式を迅速に取得できるようになった。(会社法第156条)
また、従来の譲渡人を特定した取得手続だけでなく、譲渡人を定めない取得手続も使えることができるようになった。 この譲渡人を定めない取得手続に対しては、まず、株主総会決議によって取得する株式数、交付する金銭等の内容およびその総額、株式を取得することができる期間(1年超は不可能)を定める。(会社法第156条)
次に、自己株式を取得しようとする際に、取締役会の決議により、取得する株式数、株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法、交付する金銭等の総額、申込期日をその都度定める。(会社法第157条)
会社は、取締役会の決定事項を株主に通知する。(会社法第158条1項)なお、公開会社は公告によることもできる。
株主はその通知を受けて、申し込みの可否を判断することになる。株主全員に譲渡機会を与える新たな取得手続が導入され、非上場会社の自己株式取得が実施しやすくなった。
(2)自己株式を取得できる場合
会社法第155条では、自己株式の取得できる場合を次のように定めており、原則として財源規制(交付金銭等の総額が剰余金の分配可能額を超えてはならないという規制)を課している。ただし、株主保護の要請等から会社自らの意思が反映せずに取得する自己株式取得については、財源規制は課されない。
①取得条項付株式の取得(財源規制あり)
②譲渡制限株式の取得(財源規制あり)
③株主総会決議等に基づく取得(財源規制あり)
④取得請求権付株式の取得(財源規制あり)
⑤全部取得条項付株式の取得(財源規制あり)
⑥株式相続人等への売渡請求に基づく取得(財源規制あり)
⑦単元未満株式の買取請求に応じる場合(財源規制なし)
⑧所在不明株主の株式の買取り(財源規制あり)
⑨端数処理手続における買取り(財源規制あり)
⑩他の会社の事業の全部を譲り受ける場合にその会社が有する株式の取得(財源規制なし)
⑪合併消滅する会社からの株式の承継(財源規制なし)
⑫吸収分割をする会社からの株式の承継(財源規制なし)
(3)株主との合意による自己株式の取得
①すべての株主に申込み機会を与えて行う取得
会社法では株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上により決議)を経ることなく、自己株式を市場取引・公開買付以外の方法で取得することができる。株主総会の普通決議(出席株主の議決権の過半数により決議)により、有償取得する株式の数(種類株式の発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間(ただし、1年を超えない範囲)を決議し、具体的な内容の決定は、取締役会に授権可能である。(会社法第156条)
取締役会は、株主総会の決議後、取得する株式の種類・数・1株当たりの取得価額、取得請求期間、価額の総額などを具体的に決定した後、株主に対して通知又は公告をする。(会社法第157条、第158条)
株主は、提示された期間内に、取得を請求する株式の種類及び数を会社に通知して、株式の取得請求をすることになる。なお、株主からの請求により取得すべき株式数が、会社が予定する総数を超えた場合には、按分して取得することになる。これは、会社からの株式買取通知に対して、株主が価格等を判断して応じることになるため、ある種の公開買付と同様の手続きとなっており、ミニ公開買付とも呼ばれる。(会社法第159条)
②特定の株主からの取得
前記①は、すべての株主に申込みの機会を与えて実施する自己株の取得だが、特定の株主からの取得を株主総会で決議し、自己株式を取得することも可能である。(会社法第309条)
この場合、特定の株主だけが会社に対して取得を請求できるのは、株主間の公平を害するおそれがある。そこでまず第一に、株主総会の決議では、売主となる株主の議決権行使は制限され、第二に、他の株主に総会決議の前に自己を売主に追加することができる請求権(売主の追加請求)を認めている。(会社法第160条)
なお、次の二つの場合には、売主追加請求の手続きの対象外となっている。
イ、市場価格ある株式取得の特則(会社法第161条)
売主追加請求の手続きは、取得する株式が市場価格のある株式である場合において、当該株式1株を取得するのと引換えに交付する金銭等の額が当該株式1株の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えないときは適用しない。よって、市場価格以下で取得する場合は、他の株主の利益を害するおそれがないため、売主追加請求の手続の対象外として取り扱われる。
ロ、 相続人等からの取得の特則(会社法第162条)
売主追加請求の手続きは、株式会社が株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他の一般承継により取得した当該株式会社の株式を取得する場合には適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
(イ)株式会社が公開会社である場合
(ロ)当該相続人その他の一般承継人が株主総会又は種類株主総会において当該株式について議決権を行使した場合
よって、株式譲渡制限会社においては、相続人から自己株式の取得をするにあたり、相続人を除いた株主による特別決議があれば、他の売主の追加請求手続きなく、相続人に限定して株式の取得ができることになる。
③子会社からの取得(会社法第163条)
株式会社がその子会社が保有する自社の株式を取得する場合には、取締役会設置会社にあっては、取締役会での決議事項により、有償取得する株式の数(種類株式の発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間(ただし1年を超えない範囲)を決議し取得できる。なお、取締役会非設置会社の場合には、株主総会での決議が必要である。
④市場取引等による自己株式の取得(会社法第165条)
前述の手続きの例外として、市場取引または公開買付により、自己株式を取得する場合には、原則として、株主総会で会社法第165条第1項の事項(有償取得する株式の数、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間。ただし、1年を超えない範囲)を決議し、取得することができる。
また、あらかじめ定款に「取締役会決議により自己株式を取得することができる」ことを定めれば、取締役会決議で自己株式の取得が可能である。
6、自己株式の処分・消却手続
自己株式の処分の手続は、新株発行手続と同様に行われる。よって、株主総会での決議(処分する自己株式の数、払込金額、払込期日を定める)を行う必要がある。(会社法第199条)
また、自己株式の消却は、取締役会の決議で行うことができる。(会社法第178条)
7、自己株式の法的地位
会社法第308条及び第325条により、自己株式については、会社は議決権を有しないものとされ、株主総会に関する権利も認められない。また、その他の共益権(経営参加権)も認められない。さらに、剰余金の配当を受ける権利も、会社が自己株式について余剰金の配当を受けることは、いったん計上した利益をさらに受取配当による収益として計上する結果となり不当である。また、自己株式の有償取得が実質的に出資の払い戻しであるとすれば、これに対して余剰金の配当をすることは、いわば架空の出資に配当することになり不当であることから、認められない。(会社法第453条)
また、残余財産の配分を受ける権利を認めると清算が終了しないから、これも認められていない。(会社法第504条)さらに、会社自身に対して、株式・新株予約権の無償割当をすることも、募集株式の発行等・新株予約権の発行にあたって、株主に割当を受ける権利を与える場合でも、会社自身には与えることが出来ない。さらに、会社は自己株式予約権を行使することは出来ない。(会社法第186条、第202条、第241条、第278条、第280条)
ただし、自己株式にも、株式の分割・併合など、全部又はある種類の株式につき一律に、かつ当然に効力が生じるべき場合には、原則としてその効果が及ぶ。
8、税務上の取り扱い
(1)概要
法人税法においては、自己株式そのものの定義規定はない。しかし、自己株式を取得した場合の取り扱い及び自己株式を処分した場合の取り扱いが、独立して規定されている。具体的には、法人税法施行令第8条1項20号において自己株式の取得が、同項1号において自己株式の譲渡の規定が存在する。これは、それぞれを独立した資本等取引として認識するものであり、これが法人税における基本的な考え方である。
法人税法においては、自己株式の取得又は処分については、資本等取引とみなして、資本金等の額の増減として処理する。取得の場合には、資本金等の額を減額し、自己株式を譲渡した場合には、資本等の額を増額する。したがって、自己株式という勘定科目は、法人税法においては存在しない。
(2)取得した場合
①市場取引による取得
証券取引の開設する市場から取得する場合には、取得対価の額をもって資本金等の額を減額する。(法人税法施行令第8条1項21号)
資本金等の額xxx / 現金xxx
②その他の取引
①以外の取得については、取得対価のうち、取得資本金額に相当する額について資本金等の額を減額し、それを超える額については利益積立金を減額することとなる。(法人税法施行令第8条1項20号)
資本金等の額xxx / 現金xxx
利益積立金xxx /
なお、取得資本金額については、次の計算式により計算する。
取得資本金額=資本金等の額×自己株式として取得した株式数÷発行済株式数
(3)自己株式を譲渡した場合
自己株式を譲渡した場合の法人税法における取扱いは、譲渡対価により資本金等の額を増額する。すなわち、自己株式の譲渡は資本金等の額の増加項目とされている。(法人税法施行令第8条1項1号)
現金xxx / 資本金等の額xxx
9、会計処理
(1)取得に係わる会計処理
自己株式の性格をめぐっては、資産説と資本控除説が対立してきた。
資産説は、取得した自己株式は失効の手続きが取られていない以上、再度売却可能な資産であると考え、他の有価証券と同様に換金性のある資産として取り扱う立場をいう。平成13年の商法改正前までは、取得に制約があったため資産として取り扱う立場が取られていた。
資本控除説は、発行済株式を市場から買い戻すのであるから、会社財産の流出を導き、実質的には資本の減少と同一であるとする見方である。会計学の理論的立場からは、自己株式を資本の控除として取り扱うべきだとする立場が一般的である。
商法改正以前から、会計学者からは資本控除説を主張する声が強く、資本控除説に立脚した商法改正が行われ、平成14年には、企業会計基準委員会からは、資本控除説による会計指針としての「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「会計基準」という。)が公表された。また、国際会計基準も、資本控除説を採用している。
仕訳上は、取得原価をもって自己株式という項目が借方側に、取得の対価が借方に計上される。借方に自己株式が現れるため、一見、資産のようにも見えるが、資本の控除項目とされ、表示上は純資産の部の控除項目として扱われる。よって、期末に保有する自己株式は、純資産の部の末尾において、自己株式として一括して記載し、控除の形式で純資産額を表示する。
(2)処分に係わる会計処理
自己株式の処分方法として、平成13年6月の商法改正では、新株発行の手続を準用すべきことを定めている。会計学の立場から自己株式の取得を経済的観点から一種の減資とみなして、純資産の部から控除項目として扱うことは、取引を資本取引と見ていることを意味する。それとの理論的整合性から、自己株式の処分は増資の場合の新株発行と性格的に類似のものとみることが可能であるという観点が生じる。したがって、これもまた資本取引として位置づけられる。
自己株式の取得価額と処分価額との差額が、プラスの場合には自己株式処分差益として、マイナスの場合には自己株式処分差損となる。
自己株式処分差益の性格は、自己株式取引が取得と売却の二つの取引を資本取引とみているのであるから、処分差益は純資産の部からの直接増加項目として扱われる。したがって、その他資本剰余金に計上される。
自己株式処分差損については、差益と同様に資本取引の結果としての一項目であることから、その他資本剰余金からの減額項目として扱われる。ただし、自己株式処分差損がその他資本剰余金の残高を超える場合には、繰越利益剰余金から補填される。会計基準において、この繰越利益剰余金からの減額についての処理は、資本と利益の混合にはあたらないと説明されている。その理由は、「その他資本剰余金は、払込資本から配当規制の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残高であり、払込資本の残高が負の値になることはあり得ない以上、払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金について、負の残高を認めることは適当ではない。よって、その他資本剰余金が負の残高になる場合は、利益剰余金で補填するほかない」としている。
(3)仕訳例
①、証券市場から、自社の株式10単元株(1単元株=1,000株)を1単元当たり、50,000円で取得した。
自己株式500,000 / 現金500,000
②、①により取得した自己株式のうち5単元株を1単元60,000円で売却した。
現金300,000 / 自己株式250,000
/ 自己株式処分差益50,000
③、①により取得した自己株式のうち5単元株を1単元30,000円で売却した。
現金150,000 / 自己株式250,000
自己株式処分差損100,000 /
10、自己株式処分差益の利益性
会計基準の国際化が叫ばれていた2004年、企業会計基準委員会が日本の立場を明らかにするために、「概念フレームワーク」を公表した。その冒頭、財務報告の目的を「投資家による企業成果の予測と企業価値の評価に役立つような、企業の財務状況の開示にある」とした。財務会計は、企業の外部にいる利害関係者に対し、有用な情報を提供するために存在する。会計処理を考える上で、情報の有用性を考えることこそが、もっとも重視するべき点だと考えられる。
筆者は、自己株式処分差益は、利益性を持つ、企業の財務活動の成果だと考える。すなわち、資本控除説ではなく、資産説を支持したい。
自己株式は、資産性がないものではない。株式として、その価値があるからこそ、売却(株式として発行)することが出来る。だが、消却予定のものに、資産性があるとは考えにくい。自己株式に資産性があるのは、取得した株式を他者に譲渡するからこそであり、資金を獲得できて初めて、価値が生まれる。筆者はもっと単純に自己株式を処理すべきだと考える。すなわち、短期的に譲渡する目的で取得する自己株式は、資産説によって処理されるべきだと考えるわけである。だが、それ以外の目的(消却予定など)で取得した自己株式は、資金を獲得する力がないのだから、資産性はなく、資本控除説によって処理されるべきである。
自己株式の取得が解禁されてから以降、株価の下落を止めるために取得するケースも増えてきた。また、自己株式を企業防衛の手段とするなど、今後も自己株式は、企業の経営者にとっては重要な意味を持つだろう。安い時価で、自社の株式を取得し、経営の回復後に再度、株式を取得時よりも高く売却(株式を発行)した場合に、売却の対価と取得原価との差額は、利益以外の何者でもない。安く買って、高く売る。これは、商売として当然の姿だ。短期的に譲渡して生じた、自己株式処分差益は、企業の財務活動の成果であり、その利益は経営者の努力によって生み出された成果だ。それを利益として認識することこそが、財務会計の目的に沿う会計処理だと、筆者は考える。
参考文献
椛田龍三『自己株式会計論』白桃書房、2001年
柴健次『自己株式とストック・オプションの会計』新世社、1999年
武井一浩『金庫株解禁等改正商法の解釈上の論点と実務』商事法務研究会、2001年
大武泰南『金庫株・単元株の仕組みとルール』中央経済社、2001年
内川菊義「自己株式処分差益と払込剰余金」『会計』2008年12月号
平井克彦「自己株式に関する会計問題」『経営論集』2004年3月
齋藤奏「会社法の純資産会計と法人税法の資本会計の比較検討」『大原大学院大学論集』2007年3月
弥永真生『会社法』有斐閣、2007年
武田隆二『財務会計論』中央経済社、2006年
桜井久勝『財務会計講義』中央経済社、2005年
参考URL
中小企業庁http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaisya/
財団法人税務協会連合会http://www.nouzeikyokai.or.jp/
あずさ監査法人http://www.azsa.or.jp/b_info/index.html
セイコーエプソン株式会社http://www.tabisland.ne.jp/explain/
公認会計士東海林伸興事務所http://www.shoji-cpa.biz/works/works.html
株式会社木村会計http://www.kimurakaikei.co.jp/limit/limitof/112/lp03.htm