200761

104-098

岡崎正尚

 

・メディアが造る危機

 

犯罪発生率は昔と比較して下がっている。例えば、殺人認知件数は、80年代に比べれば大分下がっており、現在は6~700の間で横ばい状態である。にもかかわらず、犯罪に対する不安は増加している

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2006年に、二年前と比較して犯罪が増加したと思うか、というテーマで全国意識調査が実施された。日本全体で増えたと言う人は、90,6%に上ったが、居住地域内で増えた、という人は、27%に留まった。

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子供が犯罪に遭う危険性が喧伝されているが、09歳の子供の被殺害人数は、80年代と比べれば、やはり低下している。そして、子供が犠牲になる事件(あらかじめ親族の犯行と発覚していない場合に限定するが)が起こるたびに、子供と不審者に関連する記事の量は増大する。

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現在と比較して、昔は、事件を広範囲に伝えるメディアが無かった。かつては、5,6名が殺害された事件でも、遠隔地で起こった事件であれば、東京ではなかなか報道されなかったのだ。

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現実の犯罪発生件数と関係なく、特異な犯罪を原因として犯罪不安が高まることを、モラルパニックという。

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マスコミは、特定の事件を、社会のゆがみとしてとらえる。つまりは、社会問題を創作する。事件が社会問題化しかけた時も、無かったわけではない。

 

例・幼児誘拐殺人事件

1969年、19歳の少年が、東京都で質屋の息子を誘拐して殺害し、身代金を要求した事例である。路上で被害者の靴をもってうろうろしているのを警察官に不審がられ、職務質問を受けたことで事件は発覚した。少年はかつて自分を馬鹿にした連中を見返すために自分を改造する計画を立て、その費用を身代金で贖おうとしていた。押収されたメモには、犯行計画、手に入れた金の使い道が、細かく書き込んであった。この事件では、少年法が問題となり、改正論も出た。また、少年が長崎から就職のために東京に来ていたこともあって、就職の問題としても語られた。なお、この少年は、東京地裁で死刑判決を受け、最高裁で棄却されて確定、死刑は執行された。

 

このように、社会問題化しかけた事件はあった。しかし、かつては、時の経過と共に沈静化したものが、現在ではそうとはならない。

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マスコミによって作り上げられたパニックが、恒常化する場合もある。市民運動家が着目し、行政、政治家、専門家がそれに対して問題として取り組み、政策が作られることで、モラルパニックは恒常化する。

 

<参考文献>

毎日新聞

犯罪不安社会・20061220日・浜井浩一、芹沢一也・光文社新書