2006年12月15日

104−098

岡崎正尚

 

・障害を持つ犯罪者たちの現在

知的障害のある受刑者の7割以上が、刑務所への再入所者である。その内、10回以上服役している者が約二割を占める。

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2004年度の新受刑者32090人の内、7172人が、IQ69未満の知的障害者である。それとは別に、測定不能の者も、1687名居る。知的障害を持つ受刑者だけでもこれだけの人数が居るのだが、障害者施設、更生保護施設は、そうした知的、精神的、身体的な障害を抱える出所者達に、冷淡である。障害のある前科者に対し、出所後の受け皿は存在しないに等しい。2004年度に、29553名の出所者のうち、社会福祉施設が受け入れた受刑者は、僅か24名に留まっている。

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日本の行政は、障害者への給付金を算定するに当たって、日常生活動作という観点からしか判断していない。日常動作が困難であるほど、割り当てられる給付金は増える。しかし、実際には、刃物やライターを持ったりする事のできる軽度の障害者の方が、支援に困難が伴う。日常動作に問題がなく、前科もある障害前科者たちは、給付金の観点からも、ケアの困難さからも、施設からは敬遠される。更生保護施設は、障害のある出所者は絶対に引き受けてくれない。福祉的介助スキルが無いからである。

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出所後の引き取り手がないために、微罪でも執行猶予がつかない事もある。一審で実刑判決を受けたが、引き受け先の施設が見つかった途端、控訴審で執行猶予付き判決となった事例があった。また、刑務所内では、現在の所、障害のある受刑者のための措置は、何ら講じられていない。規則を遵守する事が最大の目標となっている。

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結果、刑務所に居ることでしか生きて行く事が出来ない障害受刑者たちが増えていく。

2006年に発生した下関放火事件の被告は、以下のように述べている。この事件の被告は、刑務所に戻りたいが為に、駅に放火した。彼の知能指数は66、年齢は74歳だった。11回の放火歴があるが、人に被害は加えていない。55歳以降の5回の放火のうち、4回は放火後すぐに自首している。

何故刑務所に戻りたいが為に放火したかについて

「だめだめ、食い逃げとか泥棒とか、そんな悪いことは出来ん」

「(放火は悪いが)でも火をつけると刑務所に戻れるけん」

被告は、市役所の職員にまともに対応してもらえず、下関までの切符を渡され、追い返された。

「外では楽しいこと、なーんもなかった。外には一人も知り合いがおらんけど、刑務所はいっぱい友達ができるけん嬉しか。そいから、歌手が来る慰問が面白かたい」

「刑務所は安心。外は緊張するし、家は怖かった」

とも述べている。

刑務所を早く出ましょう、という山本譲司氏の言葉に、被告は、首を横に振って、面会室を出て行ったという事だ。

 

<参考文献>

累犯障害者・山本譲司・新潮社・2006年9月