犯罪者プロファイリング 第2回                                    

 

連続事件を結びつける「リンク分析」

 複数の類似事件が発生した場合に、それらの事件が同一犯人によるものか否かを推定するために行う分析である。リンク分析は2つの理由で役に立つ。

@       捜査官が1人の犯人を捜査すべきなのか、あるいは複数の人物を捜査すべきなのかを決定することができる。

A       1つの事件現場にはわずかなてがかりしか残されていない場合でも、多くの異なる現場の情報を結合することで、多くの手がかりを総合的に検討して捜査を進めることができる。

また、事件リンクには2つの手法がある。(法科学的証拠(指紋、DNAの一致)が得られない場合)

@       事件データベースにおける同一犯行パターンの出現率から、異なる犯人による犯行の蓋然性の低さを根拠とする「類似事実の証拠」と呼ばれる手法。

A       犯行スタイルや犯行テーマを見出して、そのパターンから推定する方法。

いずれの方法も分析に耐えうる質と量をもった情報が蓄積されていることが重要になる。

 

地理的プロファイリング

 連続的な犯罪において、犯行地域や各犯行地点に関する空間情報から、犯人の居住地や勤務先などの活動拠点、犯行現場への移動手段や経路、可能性の高い次の犯行地域を推定する手法である。一般にリンク分析や犯人像推定と組み合わせて用いられる。

 地理的プロファイリングは次のような捜査手法に役立てることができる。

@       容疑者の順位づけ

 捜査で優先すべき容疑者、手がかり、情報を絞り込むのに役立つ。

A       重点警戒と張り込み

 犯人との結びつきが最も強いと推定された地域は、パトロールや張り込みを集中的に強化すべき地域を選定する際に活用できる。

B       聞き込み捜査

 都市部における個別の聞き込み捜査や地方の区割り捜査を効率よく行うのに利用できる。

C       警察の情報システム

 犯人がいそうな地域を特定できれば、データベースを活用して容疑者を検索することができる。

D       ポリグラフ検査

 行方不明事件では、容疑者が浮上した段階でポリグラフ検査を行い、遺体の捜索範囲を絞り込むことがある。地理的プロファイリングと併用することで有効性が高まる。

 

「ニューヨークの爆弾魔」事件

 1939年から第二次大戦中の休止期間をはさんだ16年間にわたり、ニューヨークで、手製爆弾による爆破事件が頻繁に起こった。1956年、精神科医のジェームズ・ブラッセル博士は捜査資料、犯行現場、犯人からの手紙などを精神分析的に解釈し、次のように犯人像を推定した。

犯人は、かなり体重のある中年の男性、独身、スラブ系のローマカトリック教徒、コネチカット州に居住、兄弟または姉妹と同居、発見時にはダブルの背広のボタンをきちんとかけて着ている。

 1964年に、犯人のジョージ・メテスキーが逮捕された。ダブルの背広を着ており、独身で、二人の妹と暮らしていたということ以外にも、推定は驚くほどあたっていた。推定の根拠は次のようなものである。

爆弾犯罪は誇大自己妄想的なタイプの犯罪であり、誇大妄想は40歳頃にピークに達する。この時代、爆弾は中部ヨーロッパの人々が抗議の意思を表すときに用いられる方法であり、手紙の文法や綴りの誤りも中部ヨーロッパの出身を示唆する。そうだとすればローマカトリック教徒であり、ニューヨーク近郊のカトリック教徒が集中する地区は、コネチカット州である。手紙のW字の曲線的な筆跡は女性の胸の象徴であり、エディプス・コンプレックスをもつと解釈し、女性の親族と同居していると推定した。爆破が細部まで計画的(50件の事件で死者数は0人、重傷者もわずかだった)であることは、女性的な性格と解釈され、当時流行のダブルの背広をきちんと着る人物と推定した。

 

「ボストンの絞殺魔」事件

1960年代前半に、マサチューセッツ州ボストン周辺で13人の女性が殺害される事件が発生した。

1964年に精神科医や心理学者などによる精神医学委員会が結成され、殺人犯のプロファイリングが行われた。委員会の結論は、2人の犯人による犯行であり、1人は1人暮らしをしている教師、もう1人は同性愛者であると推定した。しかしブラッセル博士の見解は、単独犯による犯行というものだった。

1964年に性的暴行で逮捕され、投獄されていたアルバート・デサルボがボストン絞殺魔であると自白し、デサルボの単独犯行であることが明らかになった。デサルボは、元陸軍のボクシング・ミドル級チャンピオンで、妻と2人の子どもと暮らし、同性愛者ではなかった。

この事件のプロファイリングが不成功に終わった理由の一つとして、デサルボが被害者の選択を変更したことが挙げられる。デサルボは一連の犯行の初期には高齢の女性を殺害し、後の犯行では若い女性を殺害した。

どの事件を同一犯の犯行としてリンクするかに失敗したためプロファイリングは成功しなかった。

 

 

参考文献

渡辺昭一 (2005) 『犯罪者プロファイリング』、 角川書店