いい鉄は釘にならない、いい人間は兵隊にならない
基本的に人は、人を殺せない
第2次世界大戦中、アメリカ陸軍のS.L.Aマーシャル准将が調査したところによると、最前線にいた兵士たちのうち80〜85%が銃を発砲していなかったことが判明した。
また、アメリカ空軍の調査によると、パイロットとして戦闘に参加した者のほとんどが、敵機を一度も撃墜していないことが判明した。全体の1%以下のパイロットが、40%近くの成果をあげていた。そして兵士全体で見ると、実際に敵を殺していたのは2%足らずの兵士だった。
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第2次世界大戦後、アメリカ軍は心理学(「代理心理」「学習心理」)を応用して命令に忠実に従う兵隊を作り上げた。
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ベトナム戦争では、前線で発砲しない兵士の割合は5%にまで低下した。しかし、敵兵1人を殺すのに50,000発の銃弾を要した。これは銃を撃っていた兵士達がわざと外していたからである。帰還兵の多くは「敵兵を狙わず、なにもない空を狙って撃っていた」と証言した。さらに、「自分が撃ち殺されるかも知れないという恐怖を感じたときも、敵兵に銃口を向けることはできなかった」と告白した帰還兵も少なくなかった。
一方、1人で任務を遂行するスナイパーは敵兵1人を殺すのに1.5発以下の銃弾しか使用していなかった。そのため、人を殺したという責任感にさいなまれ、精神を病む確率も高かった。また、殺人者として戦友たちからも遠巻きにされ疎んじられた。
代理心理
目上の者に命令されると、問題意識を持たずにいわれたまま行動してしまうこと。
学習心理
条件付けともいう。動物が生まれながらにもっている反射行動。
動物も同種族間で殺し合いはしない
1973年にノーベル医学生理学賞を受賞した動物行動学者のコンラート・ローレンツ氏は「人間というのは、唯一同じ種族同士で殺しあう種である。」と発言している。
牙や爪など強力な武器を身に付けている猛獣どうしが闘う時には、一つ間違えば取り返しのつかない結果になる。しかし、そうした結果になることは実際には極めて少ない。それは、敗北のサインという強力な攻撃抑制刺激が働いているためである。戦いの最中に不利と思った側は背走するか、あるいは敗北を表すサインを攻撃側に向って示す。サインが示された後は攻撃者の行動はほとんど瞬時に停止する。ローレンツはこれを「攻撃の儀式化」と名付けた。
参考文献
岡崎博之 (2006) 『殺人心理学入門』、 宝島社