騒音トラブルの恐怖 第2                                      

 

騒音の発生から事件の発生まで

1段階  怒り

 騒音を発生させている相手に対してこちらの状況や要望をきちんと伝えたにもかかわらず、いっこうにやめる気配や改善がない場合、相手の誠意のなさに怒りを覚えるようになる。

 

2段階  敵意

 再三注意をしたにもかかわらずなんの改善もない場合には、相手がこちらに対して快く思っていないことは間違いなく、時間の経過とともにそれを確信してくると、敵意の感情が沸いてくる。

 

3段階  攻撃性

 敵意と攻撃性の境は明確ではない。敵意の積み重ねが攻撃性に変化してくる場合もあれば、敵意と同時に攻撃性が現れる場合もある。攻撃性をもつかどうかはあくまで個人の特性である。同じような敵意の感情がどれだけ蓄積しても、事件を起こさない人は起こさない。

 

 また、以上の3つの段階を経て事件が発生するまで、数ヶ月から長ければ1年以上かかる。

 

騒音に関する2つの疑問

1 なぜ聞きたくもない騒音を聞いてしまうのか

 これは、人間の動物的本能によるものではないかと考えられる。怒りや敵意による心理的な高揚が、音に対する感度を敏感にしている。これは相手を外敵として認識しているということである。動物は外敵が現れれば、それに備えるために相手の情報を細心の注意を払って収集しなければならない。その最も重要な情報源は相手が発する音であり、敵の音を聞き逃さないことは動物の生存のための不可欠な本能である。

 

2 騒音を注意されると人はなぜ過度に反発してしまうのか

 自分が心地よいと感じているものを否定されると、強く反発する。

 

泥仕合

 騒音トラブル解決への取り組みは、当事者→自治会、管理組合→公害対策課、保健所→警察→裁判所という具合に、私的な方法から、公的性の強い方法へと変化していく。

 また、訴訟の前に簡易裁判所で調停を行うこともあるが、この時点で、すでに両者は感情的にこじれている場合が多く、調停が成立せずに訴訟に移行するケースが多い。

 訴訟になった場合でも、和解が成立する場合もある。和解内容は調書に記載され強制的な執行力をもつため、判決と同等の効力をもつことになる。

 判決まで進み、勝訴した場合には、損害賠償や騒音の差し止めなどの結果が得られる。しかし、判決を真摯に受け止め、これまでの謝罪の意味を込めて判決内容を誠実に履行する人は少ない。

ちなみに、支払われる慰謝料は一人当たり2030万円程度である。

しかし、裁判が終わっても訴訟相手は隣に住んでいるのである。

 

騒音問題を解決するために

@ 罰則と規制

 一定以上の大きさの騒音を発生させ、それが隣人に迷惑をかけている場合には、明確な規制を設け、それに違反した場合には罰則を科す。

 アメリカの一部の市では、市の騒音条例で犬が鳴き続けることは違法であると明記されており、違反を犯したものには、最高で1000ドル未満の罰金、または30日以内の懲役が科される。

 

A 社会的な啓蒙

 これには、行政や地方自治体、あるいは民間グループなどによる社会的な取り組みが必要である。騒音防止を推進する中心組織を作る必要があり、行政も組織整備に積極的な支援をする。

 イギリスでは、64日は全国騒音防止活動デーになっている。さまざまな団体が参加して、近隣騒音問題などの具体的な解決策について、意識啓蒙を図る日である。騒音トラブルに関する劇の上演や騒音診断室の開設、パンフレットの配布などがいっせいに行われる。

 

B 良好な地域コミュニティの形成

 年少時から、この重要性を教育していく。また、地域ボランティアやNPO活動の積極化を図り、それを通して個々が地域コミュニティ形成に積極的に参画するような社会啓蒙と体制作りが必要である。

 

参考文献

橋本典久 (2006) 『近所がうるさい』、 ベスト新書