アメリカの犯罪 

 

 100年以上前は7歳以上の少年は成人犯罪者同様に逮捕され、裁判を受け、成人同様の刑罰に服することとされていた。1930年代にはほぼ全州で少年裁判所が採用された。18歳未満の少年に対して、原則少年裁判所が管轄することになった。そこでは保護と矯正を目的とした処遇が重視された。

 

 戦後アメリカの刑罰観は、基本的に「刑罰により犯罪者を治療し社会復帰させる」という治療モデルであった。応報ではなく改善と更正である。科学への信頼に立脚した保護モデルは、治療・教育という美名の名のもとに裁判官や保護観察の担当者に広い裁量を許すものであった。後々、恣意性や、不公平、不平等をもたらしているとして廃れていくことになる。

 

1965年以降の検挙人員率

 成人、少年ともに65年には年400,000人だった検挙数が80年までに800,000人に増加する。その後成人は85年に1,000,000人、90年に1,200,000人、93年のピーク時には1,400,000人に達する。少年は85年に600,000人に減少しその後は微増を続け、95年には700,000に達した。

 

1960年代 (ケネディ大統領暗殺、キング牧師暗殺、ベトナム戦争開戦)

60年代後半には、犯罪が増えるにつれて、犯罪者の矯正は困難であるというという意識が広まっていった。

一方でラベリング理論が盛んになる。刑法を適用して「犯罪」というレッテルを貼ることにより、犯罪というものがはじめて生じ、その結果、犯罪は刑事司法機関の活動により生み出されるものであるという考え方である。具体的な政策は次の3つである。

@     非犯罪化  犯罪のリストを限定することにより、今まで犯罪とされてきた行為を犯罪でなくすこと。法規範の数を減らし、犯罪者の烙印を回避する。

A     非収容化  犯罪者を刑務所内ではなく地域社会で処遇しようとすること。

B     ディヴァージョン  刑事司法機関の関与によるマイナス効果を排除するため、軽微な犯罪等を司法機関の流れから外して、処理する。

 

1970年代 (ウォーターゲート事件、ベトナム戦争泥沼化・終戦)

ラベリング理論が主流になる。保健教育福祉省は、虞犯・不良行為を裁判所の管轄から除外するようにと勧告し、非行防止プログラムに関わる連邦資金を、ディヴァージョンや非収容化の方向に振り向けた。

 

1980年代

 70年代までは「権力の象徴だとして」批判的に見られていたスクールポリスがほとんどの州で採用され、拡充されていった。

凶悪犯罪者を収容施設から解放して、地域内処遇に委ねた結果、犯罪者は社会内で再犯を繰り返したためラベリング理論が衰退した。応報刑論と威嚇抑止論が主流になる。

 

応報刑論:国家への不信感を前提に、国家による害悪の賦課である刑罰を極力回避しようとする動きで、刑罰は犯罪予防とされてはならないと主張した。犯罪歴と犯罪行為に応じた画一的な、しかも正義が貫かれた印になる程度の最小限度の量刑を提案した。

 

威嚇抑止論:保護・教育モデルの「犯罪者のあまやかし」が犯罪激増の原因であると主張した。人間の性格など矯正できるものではなく、ほとんどの人間が犯罪行為に及ばないのは、健全だからではなく、威嚇が犯罪を抑止するからである。機械化された一律の定期刑でなければならず、量刑は抑止に十分な刑罰である必要がある。

 

少年犯罪についても、非犯罪化・非収容化を擁護する議論は消滅し、粗暴類犯少年の処罰が関心の的になる。行為者の年齢は軽視され、責任年齢の引き下げが主張される。

少年事件の成人裁判所での訴追を容易にし、通常裁判所への移送年齢を引き下げ、ある種の犯罪を少年裁判所の管轄から除外するなどの形で、凶悪な少年犯罪を成人と同様に扱えるよう、大半の州が法を改正していく。→厳罰化に至るが効果は持続しない。

 

ニューヨークの地下鉄

 窃盗や暴力が横行する地下鉄の駅があった。ニューヨーク市警はこれを改善しようとするが一向に犯罪は減らない。そこである犯罪の専門家の勧めで落書きを消すことをはじめた。半信半疑のままペンキを塗りなおしたが、すぐに落書きされる。それを消してはまた落書きされる。これを根気よく続けた結果、なんと犯罪が減ったのである。

 BrokenWindow理論の実践である。放置された普通の車は何もされない。しかし、その車の窓を割って数日立つと、バッテリーもタイヤもシートも全て持ち去られる。だれも管理していないことが分かると無法地帯になるのだ。

 地下鉄の駅の例はその典型で、最初は落書きにはじまり、それが放置されたために犯罪がエスカレートしていったということになる。そして落書き一つ見逃さないという管理状態を作ることで犯罪を減らした。

 東京都は迷惑・不快行為を都の条例で取り締まることを進めているらしいが、治安の改善にかなりの効果を挙げられるのではないだろうか。

 

参考文献

『少年犯罪‐統計からみたその実像‐』  著者 前田雅英  2000年  東京大学出版会