犯罪心理学 第1                                                        

 

T態度の形成

 「態度」というのは、ある価値観や方向性が選択されている状態である。犯罪行動が取られる際は、自覚的ではなくても、何らかの反社会的・反法律的・反道徳的な態度が形成されていると考えられている。また態度は自分の中から自然に出てくるわけではない。自分を取り巻く人達の中で様々な価値観や考え方に触れることで、態度は形成される。自分の拠り所となる人々のことを準拠集団という。

反法的・反社会的な態度を作る4つのケース

@     準拠集団の価値観が反法的なものであり、それを受け入れることにより、反法的な態度を形成する場合。

A     準拠集団の価値観が順法的であっても、それを受け入れらないことにより、結果的に反法的な態度を形成する場合。

B     準拠集団の価値観が順法的・反法的に一貫しておらず、混濁していて、それに従った結果、反法的な態度を形成する場合。

C     準拠集団の価値観は順法的であるが、それに過度に適応することで状況の変化に対応できなくなり、反法的な態度が形成される場合。

(Tは以後のU〜Xの前提となる)

 

Uスキルの習得

 行動発生の前に「スキル」を習得することが多い。鍵の開け方の学習や、凶器の準備などがこれにあたる。スキル習得情報の氾濫や、凶器の取得機会の増加は、犯罪志向の態度を誘発するという問題を持つ。

 

V犯行場面誘引と犯行場面形成

 経験豊富な犯罪者は、犯行に及ぶ意図を十分に持ち、自分の手口や経験に合う場面を選び、あるいはその場面を自らの手口に合うように作り変えていく。一方、偶発犯、機会犯、初発非行者は、たまたまその場面に雰囲気や状況に誘発されて、犯罪行動をとる。例えば暗い公園や、繁華街の暗がりは、なんの意図も持たずに立ち寄った少年を、思わぬ加害者や被害者にする。

 

W初発非行から常習非行へ

 初発非行が発覚しない場合、誘因場面に遭遇した場合だけでなく、自ら誘因場面を選択あるいは形成して常習するようになる。

 また発覚した場合でもその後の処置如何で非行を防止できるか、常習へ導くかが分かれる。一般的には、発覚した行為そのものに注意が向き、それをやめるように強い統制を加える。しかし、統制の厳しさが態度の形成の原因になっている場合には効果は無く、さらに発覚しない方法で非行させることにもなりかねない。

 

X加害者が被害者に優位を得るための犯罪手口

@     加害者側が物理的な力を行使し、犯行を可能にする「暴力的手口」

A     被害者に犯行を気付かせないことで対抗させない「窃盗的手口」

B     加害者を被害者の協力者と誤認させて対抗させない「詐欺的手口」

 

しろうと理論(素朴理論)

科学的理論の対義語。人々が独自に作り出した理論。特徴は次の3つ。

@     明白に文章で表現したり、公式で示したりすることは難しい「暗黙の理論」であること。

A     自分の経験に基づいた、主観的な「経験の理論」であること。

B     経験に基づいた理論を持った人は、その後、自分の理論に合致した事例のみを選択的に探し、一致しない事例はみないか、無視することで、理論の確かさを確認する(選択的確証)。

例えば大きな地震が起った時に、「地下のナマズが原因だ」「神々の怒りだ」などという、しろうと理論(迷信)が唱えられたとする。これらの自然現象についてのしろうと理論は科学的理論が登場すれば駆逐され、いくら広まったとしても地震の発生には関係ない。

 しかし、人間の心理や行動についてのしろうと理論の場合、例えば「犯罪は厳しいしつけでなくなる」「自由にのびのびとさせれば非行を無くすことができる」「偏差値重視の学校教育が悪い」「社会の価値観の混乱が犯罪の原因」等は、直接人間に影響を与える。

 

無意識論の巨大化 

人は自分の行動や、簡単に理解できない他者の問題行動を、何か不可思議なもの、場合によっては運命的なものに支配されていることに「期待」している。「無意識」「心の闇」という理論は、人々のそうした期待に最もフィットする理論なので、人気が集まる。

犯罪のそれ自体は行動であり、その原因を全て無意識や心の闇に帰結させるのはあまりにも極端だといえる。

 

 

『図解雑学 犯罪心理学』  著者 細江達郎  2002年 ナツメ社