誇大自己症候群 第3回                                                         

 

誇大自己症候群と付き合う

@     鏡になる

 誇大自己症候群の人は自分の事しか眼中にない。誰かと話していても、相手に都合や感情や現実があるとは、露ほども思わない。まして、自分の意見を否定されたり、間違いだという評価を下したりすると、激しく怒り、侮辱されたと受け取ってしまう。

 この場合は、賞賛や自己顕示欲をほどよく満たすとよい。鏡のように自分の偉大さを映し出すことで過度な自己顕示から開放される。

 

A     距離を保つ

 誇大自己症候群の人は、他人を自分の一部や延長のように感じるか、全くの敵対者、無関係な<>のように感じるかに二分される傾向が強い。さほど親密でない時は普通だったのに、親しくなった途端に、別人のように身勝手で、支配的で、傲慢になる。いつの間にか相手の言いなりになっていて、要求を断ったり、そっけない態度を見せたりすると、相手は怒り狂う。

 この場合は、相手が急に距離を縮めてきたなと思った段階で、距離を保たなければいけない。相手に合わせようと考えたり、自分をさらけだすような言動をしたりしてはいけない。

 

B     取引に乗らない

 誇大自己症候群の人はさまざまな要求を持ち出すと同時に、取引しようとする。要求を叶えてくれれば、こちらの期待に応えるという態度を示したり、逆に、要求を叶えてくれないのならば、ひどいことをすると脅したり、死んでしまうと不安を煽ったりする。

この場合は、取引に乗ったり、脅しに屈したりすると、自分の思い通りに相手を動かせるものだと間違った学習をしてしまう。動揺を見せたり、下手に譲歩したりせずに、一貫した態度を維持することが大事。

 

C     勝ち負けを競わない

 誇大自己症候群の人は、自分を特別な存在だとアピールしようとする。たわいもない話題でも、それが正しいとか間違っているということにこだわったり、自分の知識や経験をひけらかしたりする。議論の全体ではなく細部にこだわり、共通点ではなく違いに囚われやすい。問題自体よりも、自分の思い通りになるかならないかに重点を置いてしまい建設的な議論ができない。勝者と敗者を決めたがる。

 この場合は、勝ち負けを競うつもりはないのだということを伝え、不毛な消耗戦は避ける。笑って勝たせてあげる。

 

D     忠告に耳を傾けさせる

 誇大自己症候群の人は非難にとても敏感である。特に噂や風評には弱い。

 

 

誇大自己症候群を防ぐ

@     傷つきに打ち克つ力を育てる

 子どもは過保護な環境で暮らすことに慣れると、傷つきや不快さに耐える力が育たない。忍耐力やねばり強さというものを、家庭や教育が、絶えず用心しながら意識的に養っていくことが一層重要になる。

 

A     愛情と叱ることのバランス

 親や教育者は、子どもの気持ちに共感し、要求を満たすことも大事であるが、必要な時には叱り、してはいけない行動を抑制し、非を悔いることを学ばせなければいけない。

 

B     個性よりも人としての基本を

 現代社会ではとかく個人の尊重にばかり重きがおかれ、他者に対する配慮や他者とともに生きる喜びという部分が忘れ去られがちである。本当の「個性」は他者とのつながりの中で育っていくものであり、それを欠いたものは、周囲の甘やかしが生み出した「わがまま」にすぎない。

 

C     ぬくもりある体験の回復

 現代では自己愛的なファンタジーに浸る装置や媒体に、どっぷり浸かって暮らしている子どもも少なくない。怒りやストレスも、仮想空間で発散するのが当たり前になっている。現実とのぬくもりのある接触を通して他者を思いやる心を育てなければならない。

 

『誇大自己症候群』 岡田尊司 2005年 筑摩書房