精神科医の功罪                                                               

 

功 ~再犯防止~

表 (触法精神障害者と同時期に出所した一般犯罪者との再犯率の比較)

 

 

総数(人)

再犯

再犯率(%

殺人

触法精神障害者

205

14

6.8

一般犯罪者

180

51

28.3

放火

触法精神障害者

139

13

9.4

一般犯罪者

185

64

34.6

・壁にぶつかる従来の精神医学概念

20046月、佐世保で小学校6年生の女児が同級生を殺害するという事件が起きた。事件後、精神科医たちは加害女児の精神鑑定をした。そして、「発達上の問題が認められるが重篤ではなく、何らかの障害と診断される程度には至らない。」という結論を示した。

症状の「軽さ」と事件の「重さ」が釣り合わない。→異常が無ければと治しようがない。新たな医学概念を作って治療にあたらなければ低い再犯率は維持できない。

 

罪 ~あたらない犯人像推定~

1988年から89年にかけて埼玉県と東京都で4人の幼女が相次いで誘拐殺害された。この事件の犯人、宮崎勤(27)は朝日新聞東京本社に犯行声明文や告白文を送った。これらの文章の中では子どものいない女性「今田勇子」を名乗り、犯行の詳細を4,800字にわたって書き綴っていた。

マスコミは事件発生から犯人逮捕まで激しい報道合戦を展開した。そのなかで専門家たちが、さまざまな犯人像を描き出した。

 

・ 犯行声明から、子供のいない女性の犯行と素直に考えるべきであろう。子供が欲しくて産院から赤ちゃんを誘拐する犯罪の延長線にある大胆で異常な行動だ。犯人は30-40代で、卵巣摘出など身体的理由で妊娠できないと知っている女性。かわいい子供がいる母親を見ると嫉妬する。普段は地味でまじめな職業につく目立たない女性だろう。(精神科医、「朝日新聞」1989211日)

 他にも犯罪社会学、文章心理学などの専門化が犯人像を推定したが、あたらなかった。

 

また1997年に神戸で発生した「酒鬼薔薇事件」でも同様にさまざまな犯人像の推定が行われたが、そのほとんどが犯人は30代から40代というものであり、中学生であるとの推定は誰もできなかった。

しかし元FBIの特別捜査官でプロファイラーのロバート・レスラー氏は、犯人の年齢幅の下限を10代後半と推定していた。

 

参考文献

『犯罪者プロファイリング』 渡辺昭一 2005年 角川書店

『誇大自己症候群』 岡田尊司 2005年 筑摩書房

『刑法39条は削除せよ!是か非か』 呉智英・佐藤幹夫 2004年 洋泉社