6.最高裁判所裁判官の国民審査


 6-1 79条2〜4項本文について

 79条2項 
 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

 79条3項
 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

 79条4項
 審査に関する事項は、法律でこれを定める。


 79条4項を受けて定められた法律が、最高裁判所裁判官国民審査法(S22制定 全58条)であり、同法32条で「罷免を可とする投票の数が罷免を可としない投票の数より多い裁判官は、罷免を可とされたものとする」と、過半数を超えれば罷免が成立することが定められている。

 

 6-2 国民審査制度の法的性質

 国民審査制度の性質に関しては、79条2項の「任命は・・・審査に付し」という文言を重視して、任命行為を完結確定するものという考えもあるが、79条3項の「罷免される」という文言を重視して、リコール制と考えるのが通説となっている。

 これは、任命行為を完結確定するものと捉えると、裁判官はその任命後、国民審査までの間、まだ任命が完結していないのに裁判することになり、この点の合理的説明がつかないからである。

 

 6-3 国民審査の方法

 罷免を可とすべき裁判官に×をつけ、そうでない場合には無記入という形で行われ (国民審査法15条1項)、×印の投票が過半数を超える場合にのみ罷免が成立することになる (同法32条)

 また、審査に付される裁判官の氏名の順序は、中央選挙管理会がくじで決定することと定められている (同法14条1項)

 国民審査法第14条1項 (投票用紙の様式)
投票用紙には、審査に付される裁判官の氏名を、中央選挙管理会がくじで定めた順序により、印刷しなければならない。

 国民審査法第15条1項 (投票の方式)
審査人は、投票所において、罷免を可とする裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し、罷免を可としない裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない。


 この現行制度に対しては、不明の者の票を罷免を可としない票に数える現行制度は合憲なのかという議論がある。

 判例は合憲としているが、信任の際に○、不信任に×、棄権は無記入という方法の方がより適切だという有力説も存在する。

 

 6-4 国民審査の実効性

 国民審査制度に対しては、

 1.国費の無駄遣いである
 2.国民による裁判官の適性の判断は困難
 3.罷免を可とする投票が過半数になる可能性は皆無に等しい

 などの理由から廃止を訴える論も有力である(ある意味、現実論と言える)

 しかし元来、本制度は裁判官の選任に対する民主的コントロールの手段として重要な意味を持っており、むしろ国民に司法を身近にし適切な判断ができるように制度のよりよい活性化を図るべきとの意見も存在する(他方こちらは、理念的と言える)

 

 6-5 <付記>では現在、国民が司法に直接参加するにはどのような制度があるか?

 現行制度としては、検察審査会制度(くじで選定された11名の検察審査委員が、検察官が事件について公訴を提起しなかったことの当否を審査する制度)や、調停委員制度(合意による紛争解決をはかる委員制度のこと。民事関係の調停では主任たる裁判官と2人以上の民間人で構成される)などがあり、

 また近年中の実施を目指して、裁判員制度(選挙人名簿から無作為抽出された一定数の「裁判員」が、重大な刑事事件の事実認定と量刑について、職業裁判官と同等の権限をもって裁判に参加する制度)の導入が図られている。